なぜ目黒蓮の演技は視聴者を引き込んだのか? 『海のはじまり』で追求したリアルな芝居の真骨頂とは? 考察&評価
目黒蓮主演の月9ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)。本作は、さまざまな親と子のつながりを描いたオリジナルストーリーだ。初回放送から反響を呼び、考察や感想が飛び交う中、最終回もSNSのトレンド1位を獲得して幕を閉じた。本稿では、月9ドラマ初主演&初の父親役に挑戦した目黒の演技を振り返る。(文・柚月裕実) 【写真】目黒蓮に涙…『海のはじまり』貴重な劇中カットはこちら。
初の父親役に挑戦した目黒蓮
目黒が演じる主人公の月岡夏は、印刷会社で働く28歳。3歳の時に両親が離婚し、母親に引き取られた。母の再婚により、父と3歳下の弟・大和(木戸大聖)がいる4人家族。高校卒業後は都内の大学へ進学。新入生歓迎会で、南雲水季(古川琴音)と出会い、交際へと発展する。 しかし、大学2年生の冬に突然、水季が一方的に別れを告げ、大学も辞めて夏の前から姿を消してしまう。そこから7年の月日が経ち、水季の病死をきっかけにある事実が発覚する。 学生時代、水季の妊娠が発覚し、夏と相談した上で中絶することを決めたはずだった。しかし、水季は夏には告げずに産むことを決めた。そして、6歳になる一人娘・海(泉谷星奈)をおいて亡くなってしまう。夏は水季の葬式をきっかけにその事実を知るのだった。 初回から衝撃的な展開を見せ、SNSでは様々な感想が飛び交った。回を追うごとに登場人物の揺れ動く感情に、同じように葛藤したり、悲しみに暮れたり。教科書のように明確な答えがなく、自分なりの答えを出して生きていかなくてはならない。様々な親と子のつながりや登場人物の心境に触れ、もし自分だったら…と考える度にその難しさを突きつけられた。
表情と声、間、目黒蓮の演技の魅力
目黒が初めて出演したフジテレビ系のドラマは、2021年1月期放送の木村拓哉主演ドラマ『教場II』での生徒役。警察学校らしいキビキビとした動きはもちろん、長身や引き締まった体型からも説得力をもたらした。 映画単独初主演を務めた映画『わたしの幸せな結婚』(2023)では、明治・大正期を彷彿とさせる架空の世界を舞台に、心を閉ざした冷酷無慈悲なエリート軍人久堂清霞を演じた。漫画原作らしい架空の世界を舞台に、こちらも多くを語らないキャラクターではあったが、目黒の表情はセリフ以上に心情を語り、誰もが認める演技力を発揮した。 俳優・目黒蓮の名を一気に轟かせたのが『silent』(フジテレビ系、2022)だ。若年発症型両側性感音難聴を患う佐倉想役を熱演。音が聞こえなくなるにつれての心の動きをはじめ、手話で一生懸命に思いを伝えようとする姿、そして時折見せる柔和な笑顔の印象もいまだ色濃く残っている。 『海のはじまり』も同様に、演じた夏と共に目黒の一生懸命さも伝わってきた。夏のプロフィール欄には、「めんどくさいことや、頭を使うことなどを避けるようにして生きてきた部分もあり、特に大きな挫折を経験したこともなく生きてきた」とあるように、ごく普通の青年だ。 目黒の演技にはまずその役柄を損なわない、素朴さ、普通っぽさがある。 ジュニア時代から様々な作品に出演して俳優道をひた走るタイプもいるが、目黒はジュニア時代はユニット活動のほかは舞台出演が多く、テレビドラマへの出演は多い方ではなかった。 それが功を奏したのか、作り込み過ぎないナチュラルな表情が親近感を誘い、物語をリアルに引き立てていた。持ち前の低く丸みのある声色も、夏の人柄とマッチしており、物語を軽く見せないエッセンスとなって活きていた。