30分で約3000円、バイクにまたがって観光客を誘惑…ベトナムの”裏名物”「ホンダガール」とは?
姿を消した「ホンダガール」が……
薄暗い路地裏の通りに立っていると、1台のスクーターが近づいてきて、目の前で停車した。 【現地写真】"胸元や背中が大胆に開いた服装"が特徴 男性に営業をかける「ホンダガール」 「シンチャオ」 ベトナム語で「こんにちは」と話しかけてきたのは、スクーターを運転していた見ず知らずの女性だ。スクーターのシートに腰かけたままマスクを顎までズリ下ろし、愛想笑いを浮かべている。後部シートを片手でポンポンと叩き、ここに乗れと言わんばかりだ。 「何歳?」 そう英語で訊ねると、「30歳」と英語で即答した。 ここはベトナム最大の都市ホーチミン。東南アジアの中でも有数の経済成長を遂げている都市だ。今年7月、香港上海銀行(HSBC)は、’24年のベトナムのGDP(国内総生産)成長率が東南アジアで最高となる見込みだとするレポートを公表。事実、翌8月に出揃った東南アジア主要国の第2四半期GDPの前年同期比を見ると、ベトナムが最大の成長率だった。 そんな急成長中のベトナム・ホーチミンから、近年、忽然と姿を消したものがある。「ホンダガール」と呼ばれる女性グループだ。 「バイク大国のベトナムでは、ヤマハ製でもスズキ製でもバイクのことを総称して『ホンダ』と呼んでいます。そのホンダに乗りながら客を物色し、売春をする女性たちが『ホンダガール』。長らくホーチミン風俗の″名物″でした。ただ、ここ最近の急速な経済成長に後押しされた当局の取り締まりによって街娼が激減。コロナ禍の影響もあって、ここ最近は″ホーチミンからホンダガールが完全に姿を消した″といわれていました」(風俗ライター) ところが――ホーチミン市内のとある地区。大学キャンパスの裏手で「今でもホンダガールたちが活動している」と話すのは、通訳業を営むベトナム人男性だ。彼の手引きで路地裏を歩いてみると、冒頭のホンダガールが声をかけてきた。 バストを強調した黒いワンピースに、白いヘルメット。太い眉と大きな目が特徴で、ばっちりとメイクもしている。彼女は「リン」と名乗った。 「早く乗って」 騒音でよく聞き取れないが、恐らくベトナム語でそう言ったのだろう。そんなリンに、値段と時間を聞いてみると、30分で50万ドンと答えた。日本円で約3000円だ。 「バイクに乗ると、時間制の連れ込み宿まで連れて行ってくれる、そこで性交渉を行うというワケです」(前出・通訳) 笑顔を絶やさないリン。だが、他のホンダガールも見たいと思い、誘いを丁重に断った。すると急に表情が曇り、「チッ」と舌打ちするかのようにエンジン音とともに暗闇の中に走り去って行った。 再び別のバイクが近づいてきたのは、その約3分後。運転しているのは、60歳は優に超えていると思われる熟女だ。後部シートには、髪をアップにした若い女性が座っている。熟女がベトナム語で話しかけてきたが、「一番後ろに乗れ」と言っていることは仕草でわかった。 若いほうの女性に年齢や値段を聞いてみたが、キョトンとした表情で何も答えない。恐らく英語が通じないのだろう。代わって熟女が英語で「24歳」とだけ答え、若い女性は作り笑いを浮かべながら、「いいから早く乗って」とばかりに、やはり後ろのシートをポンポンと叩く。 ◆「汚職」による摘発逃れも 「この辺りで商売しているホンダガールは、だいたい5~6人のグループです。グループは連れ込み用のホテルと組んでいて、19時頃からこの通りをホンダに乗って行ったり来たりしながら、客を物色します。メインターゲットは外国人観光客。昔は日々の生活に困った貧しい女性が多かったのですが、近年は留学資金をためるために、この商売をはじめる学生もいるそうです」(前出・通訳) 人数こそ年々減少していると見られるものの、ホンダガールは絶滅したわけではなかったのだ。 「ベトナムでも、もちろん売春は違法行為です。特に都市部のハノイやホーチミンでは警察が定期的な取り締まりを強化していることになっています。国際的な経済都市に成長する中で、売春婦たちが街中を闊歩していては見場が悪い。政府は彼女たちを一掃したいと思っていますが、摘発が追い付いていない。警察官が賄賂を貰って見逃しているケースも多々あります」(全国紙外信部記者) 実際にホーチミンでは昨年末から今年にかけて、大規模な売春組織が何件か摘発されたことが話題になっている。 「カラオケ付きの高級レストランが売春を斡旋しており、200人近い女性がホステスとして働いていた店もありました。外国人観光客向けのその店は、高級車で客を送迎し、高級マンションの一室で性的サービスを提供していた。価格は日本円で2万円前後が相場でした」(同前) 一方、安価でサービスを提供するホンダガールが提携するホテルは一時間、約290円。カビ臭く、窓もない殺風景な部屋にベッドが置かれているだけだという。 この夜、4人のホンダガールが声をかけてきた。どの子も客を獲るのに必死だ。前出の通訳はこう話す。 「経済がよくなったと言われているけど、ベトナムには仕事がないと嘆いている国民が今もまだたくさんいます」 経済成長の波に取り残されたホンダガール。彼女たちは生活のため、明日も必死で客を探すのだろう。 『FRIDAY』2024年9月27日・10月4日合併号より 取材・文:加古良是(ジャーナリスト)
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