ベストセラー『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』著者が、疲れ切った会社員に薦めたい本とは?
「書店員が選ぶノンフィクション大賞2024」に輝き、販売数20万部を超えた文芸評論家・三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)の勢いが止まらない。ビジネスパーソンに刺さるタイトルをはじめ、「歴史上、日本人はどうやって働きながら本を読んできたのか?なぜ現代の私たちは、働きながら本を読むことに困難を感じているのか?」を丹念にひも解いた内容が多くの人を魅了している。そんなヒット作を生み出した三宅さんに、同書の狙いや読書術、オススメの本などについて話を聞いた。(ライター 正木伸城) 【この記事の画像を見る】 ● 『なぜ働』がヒットした要因とは ――『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、なぜヒットしたと感じていますか? 書店の影響力が大きいです。この本は、「集英社新書プラス」というサイトでの連載をベースにしていますが、連載当時から想定以上に多くの人が読んでくれていました。その後、本の発売に合わせて東京の大きな書店がたくさん発注してくれて、それを知った他の書店も「あの大手がそんなに多く発注するということは……」と思ってもらったようで。そういった流れが一番大きかったと思います。 ――本書のテーマである、「労働と読書の両立が難しいことに皆が悩んでいる」という視点は、何がきっかけで生まれたのでしょうか? 映画『花束みたいな恋をした』を観たことが大きかったです。小説や漫画などの文化的趣味が合ったカップルが、次第にすれ違う様子を描いた作品なんですけど。仕事が忙しくなって本や漫画を読まなくなった彼氏に、彼女が失望をするようになるんですね。 私を含めて友人たちも、その主人公にかなり共感していて、気づいたんです。「働いていて本が読めなくなる問題ってすごく大きいのに、あまり本格的に言及されていないな」って。それでこのタイトルを思いつきました。 ――働くと本が読めなくなる原因って、改めて何だと思われますか? 「本」そのものが、今の社会において「ノイズ」になってしまうことが大きいと思います。現代の環境下では、読書の目的が「情報を得ること」がメーンになっている場合もあり、その背景や文脈みたいなものを読み取ることが、ノイズとみなされがちなんです。 例えば、自己実現に役立つ情報収集のための読書ならいいけど、それ以外の読書は嫌煙されがち、といった状況です。本来、読書ってノイズだらけなものなんです。そういう読書をしづらい、または労働と両立させにくい世の中って「おかしいよね」っていう問題意識が本作の根底にあります。