猫好きによる猫好きのための完全ワイヤレス「NEKO」制作秘話をラディウス開発陣に訊く
低音もしっかりと感じられるバランスのいい音質に定評のあるラディウス。そんなブランドの音づくりの系譜を継ぎつつも、外観デザインから音声アナウンスに至るまで猫づくし、すべての猫好きに届けたい猫好きの猫好きによる猫好きのための完全ワイヤレスイヤホン「NEKO true wireless earphones(HP-C28BT)」が、8月8日に発売される。 試行錯誤を重ねて“猫らしさ”を追求。シンプルな本体まで猫愛あふれる仕様 そばに置いておきたくなる猫フォルムのケース、音声アナウンスは猫の鳴き声、さらには猫が喉を鳴らす音が3分間聴こえる「ごろごろモード」の搭載など、猫好きが思わず共感してしまう「ねこ、かわいい」仕様をはじめ、オーディオブランドとして蓄積された技術とノウハウを感じさせる音の作り込み、そして “猫” 専用のチューニングまで施された本モデル。 本稿では開発陣へのインタビューを通して、愛情とこだわりが詰め込まれた製品の魅力をお届けしていく。 ■誰にとっても “自分の猫” になるシンプルなデザイン ――「NEKO true wireless earphones」は「ねこ、かわいい」をテーマにした完全ワイヤレスイヤホンとして注目を集めています。本モデルの企画意図をお聞かせください。 福井:初めはやっぱり「猫に癒されたい」という想いから、私自身が愛してやまない猫をモチーフとして完全ワイヤレスイヤホンの企画と開発をスタートしました。 本来イヤホンの “音楽を聴く” という行為は、気分を変えたり元気をもらえたりするもので、それは猫と接することと少し近しいところもあるなと思いまして。音楽を聴くことと猫の魅力を掛け合わせることで、よりよいリスニング体験を提供できると考えました。 ――まさに一緒にいたくなるようなフォルムの充電ケースが、猫イヤホンの魅力の一つです。デザインに関してこだわりを伺えますか? 福井:現在市場には、機能や性能などのテクノロジーが充実していたり、小型化に特化したりする製品などはたくさんありますが、NEKOのように充電ケースの外観がユニークながらも、“音楽を聴く”行為の邪魔にならないよう配慮された製品は非常に少ないと感じています。 NEKOの充電ケースは、デスクに置いておきたいかわいさを目指し、お気に入りの寝床で小さく丸くなって眠る猫をモチーフにしました。寝床からこぼれ落ちそうなボリューム感や、手足がしまわれて体の部位が曖昧な感じの「猫らしさ」にこだわっています。 猫好きの方がそれぞれ想像する「自分の猫」を思い浮かべてかわいがっていただけるよう抽象的なフォルムにし、お顔はあえて描かず、キャラ付けされてしまうのを避けています。みなさんに愛される「猫」という概念の形に仕上がったと思います。 カラーはクロ/シロ/ミックスの3匹をご用意しました。実は、ミックスちゃんのモデルはうちの子なんです。本当は、耳の外側だけ色を変えたり、尻尾を濃い色にしたかったのですが、印刷と製造の都合で泣く泣く断念しました。外観は本当に試行錯誤を繰り返して、製造工場と協力しながら「ねこ、かわいい」に仕上げていきました。 また、猫は魚が好きなイメージがあるので、猫にとってのご飯ということで、充電ケースのバッテリー残量を示すインジケーターはおさかなの形にしています。 ――猫の充電ケースに対して、イヤホン本体はシンプルともいえるデザインですが、なにか意図がおありなのでしょうか。 福井:実は、その辺りはとても注意してデザインを進めました。というのも、イヤホン本体に肉球アイコンや猫耳など、いかにも「猫」という要素を入れると、老若男女問わず使えるデザインとは離れてしまうからです。「猫が好き」という方は年齢や性別問わず、たくさんいますので。 年齢や性別によって「猫は好きだけど、このイヤホンはデザインが可愛すぎて使えない」となってしまったら悲しいなと。NEKOは充電ケースさえ懐に隠してしまえば、イヤホン本体は一般的なイヤホンの印象と変わらないシンプルなものにしました。 ラディウス製品として、ラディウスらしい音づくりも踏襲していますので、これは真面目なオーディオ製品なんですよということを、きちんと製品からも感じられるようにしておきたくて。なるべく猫のかわいい要素を残しつつ、全体的にはシンプルさを意識しています。なので、幅広い層の猫好きの方に気兼ねなく使っていただけると思います。 また、自分のNEKOという愛着を持っていただけるようにしたかったので、本体は複数カラーのペレットを混ぜたランダム成形を行い、個体ごとに柄が異なるマーブル模様に仕上げました。 このマーブル模様をきれいに表現する調合が本当に難しくて、混ざりすぎて一色になってしまったり、それを防ぐために特定の色を混ぜて調整すると、逆にその色が強く出過ぎてしまったり。成形する数量によっても混ざり具合が変わってきてしまうようで、何度も試行錯誤を繰り返し、ようやく納得のいく製品をお届けできるようになりました。 ■音声アナウンスは猫の声を実際に収録 ――猫の鳴き声が収録されているという音声アナウンスをはじめ、内部の機能についてはいかがでしょうか。 福井:音声アナウンスは、ラディウス社員が飼っている猫の鳴き声を収録し、実装しています。 たとえば、充電が少なくなった時(Battery Low)はどうしても『ごはぁぁあん』にしたくて。多分、猫がお家にいる方は、自分の家の子が「これ今ご飯って言っているわ」という鳴き声に心当たりがあるんじゃないかと思います。私の家の猫もお腹が空いていると『ごはぁぁあん』とすごく大きな声で鳴きます。 収録班の社員も猫を飼っていたので、お腹が空いた時に「ごはんって鳴く?」と尋ねたら、「鳴きますね……」と。なので、そこをなんとか録ってくれとお願いしまして。 どういう時にどういう声を出すのかがわかるほど、飼い主(社員)との信頼関係ができている子だったので、右手におやつ、左手にレコーダーを持って「どーお?」みたいな……。かなり粘って録ってきてくれました。 接続完了した時(Connected)の『にゃー!!』は、甘えたい時や、話しかけながら寄ってくる時に「あ、今こっちに話しかけているな」とわかる声です。それこそ仕事が終わって帰宅して、家を長く空けていたタイミングで猫に会いに行くと、向こうからも『わーっ!!』『やっと帰ってきた!!!』みたいな雰囲気で寄ってくる時の声を採用しました。 接続が切れた時(Disconnected)は、最初クラッキングか威嚇する声にしようかと考えていました。でも、威嚇する声だと録る時にどうしても猫を怯えさせなきゃいけなくなってしまうので、それはよくないなと。クラッキングはしない子だったので、ちょっと変な鳴き声が録れないかなと思っていたところ『みょんぉんぉん』が。 お尻を叩いてもらうことが好きなようで、叩かずにいると拗ね始めるそうなんです。その時の声を狙って録音してもらいました。この『みょんぉんぉん』は初めて聴くとびっくりするんですけど、でもちゃんと猫の声だなとわかるんです。個人的にはお気に入りです。イベントで試聴してくださったお客様も、イヤホンの接続を切る時に驚きつつ笑ってくださいます。 自分の家の猫がいろんな鳴き声をするというのは、多分どの飼い主も共通で感じていることかなと思うんです。もしかしたら、最初はこのイヤホンの鳴き声の差がわからないという方もいらっしゃるかもしれませんが、聴いていくうちに慣れてきて、だんだんわかるようになってくると思います。猫との絆を深めて、仲良くなっていくと何を言っているかわかるようになる、という体験を味わっていただけたら嬉しいです。 ――収録だから、どのアナウンスにもどういう時の声なのか、というエピソードもあるんですね。では、3分間猫が喉を鳴らす音が聞こえる「ごろごろモード」搭載の経緯をお聞かせいただけますか? 福井:「ごろごろモード」を入れた理由は、かわいいからです。猫の出す音の中でも、ごろごろは一番かわいいです。猫が嬉しい時、リラックスしている時に鳴らす音なので、聴いていて私もすごく安心できます。 たとえば、仕事が終わって家に帰って、一人でスマホをいじりながら猫を撫でていると、猫もまったりしてごろごろ言い出すんですね。かわいいです。 ただ、イヤホンに実装できる音声の容量は限られているので、ひとつの短いごろごろ音を3分間リピートさせているんです。これがなかなか難しく、音のつながりが自然になるよう音響班が調整を重ねた結果、実装を実現することができました。 また「ごろごろモード」は、ただただかわいいだけの機能なので、通常のリスニング操作を阻害しないよう、タッチセンサーを5回タップするという、誤って起動する可能性が低いコマンドに設定しています。 ――デザインや機能について、オーディオ製品としての指針も明確に持っていらっしゃるように感じました。改めて、完全ワイヤレスイヤホンとしてこだわりを伺えますでしょうか。 福井:音質面について、基本的には低音がしっかり出るけれど、低音ばかりじゃなく中高音も決して埋もれないという、ラディウスらしいバランスの取れた音質を目指して設計しています。そこに加えて私からは、猫のごろごろと鳴き声がしっかり聴こえるチューニングをしてほしいと音響班に伝えました。 ごろごろの低音と鳴き声の高音をきれいに聴こえるようにというのは、一般的なイヤホンの音質調整とも少し違います。音響班は、音楽を楽しむための音質と猫の声をリアルに表現する音質の両立にとても苦労していました。 アナウンスの音声自体は十分なクオリティで録音できていたので、イヤホンに実装した時、元の音声から劣化していないか気をつけました、と音響班から。猫好きの方が聴いても「あ、これ猫がちゃんと鳴いているね」とわかっていただけると思います。 NEKOは筐体サイズが非常に小さいイヤホンなので、ドライバーもあまり大きなものは搭載できません。その中でも、低音と高音がしっかり出せるように、周波数特性や音圧レベル等の綿密な調整を施しました。弊社はコンパクトなシリーズのイヤホン製品もラインナップしていますので、そこで培ったノウハウも活かされています。 イベントで試聴してくださるお客様の中には、見た目の印象からバラエティグッズなんじゃないかと懸念される方もいらっしゃいましたが、実際に音を聴くと「ちゃんとラディウスの音だね」「小さいのにバランスがいいね」と、嬉しい感想をいただけています。 あとは、普段ご使用いただく上では欠かせないIPX4の生活防水に対応しています。 ――猫愛とこだわりの詰まった製品ですが、1台あたり20円を保護猫団体に寄付との内容が公式サイトに記載されています。こちらも福井さんの意図によるものでしょうか? 福井:はい。私が企画、進行をしていたのもあって結構すんなり「いいよ、やろう」と言ってもらえて。本当によかったです。 私自身が、猫をただかわいいコンテンツとして消費することだけは絶対に避けたいと考えているので、今後もし似たような製品が出てきた時は、同じように社会貢献へつながるような取り組みがあれば、すごく嬉しい広がりだと思います。 猫は本当にかわいいじゃないですか。でもただ猫を「かわいい」って言っているだけだと、それって別に猫のお腹は膨れないし、人間が騒いでいるだけになってしまうので。猫がかわいいからこそ、猫の幸せを考えたいという想いでNEKOを開発しました。猫の力をお借りするからには、猫にお返ししたいなと。 ミックスちゃんのモデルとなった猫は、今はお空にいるのですが、私が小学生の時に県が主催した譲渡会で我が家の家族になってくれた猫でした。また、今私の家で暮らしている6匹のうち5匹がいろんな縁でやってきてくれた保護猫なので、私にとって保護猫は身近な存在です。 ただ初めて猫を迎える方には、保護猫という選択肢がそもそも少ないのかなというのは感じていまして。なので、このイヤホンが猫たちを幸せに導くために活動している方々の存在を知るきっかけになり、微力ながらその活動の支援につながればと考えています。 ――犬をモチーフとした製品など、今後の展望などはありますか? 福井:私たちの猫愛がみなさんに伝わってこその企画なので、今のところ犬をモチーフとした製品は考えていません。猫はどの猫種も同じようなフォルムをしているので抽象化が可能でしたが、ワンちゃんはたとえばチワワやダルメシアン、ボルゾイなどフォルムが全然違いますので「犬」という概念の形をつくるのがなかなか難しいかなと。 動物をモチーフとしてシリーズ化していくというよりは「持っていて嬉しい」という部分に特化した製品づくりをしていきたいと考えています。NEKOではもうちょっと柄の多い子などのバリエーションを増やしたり、難しいとは思いますが、お客様のお家の猫に合わせたオーダーメイド猫を叶えられたりしたらお喜びいただけるかなとか。 あと、SNSなどで「ノイズキャンセリング機能はつかないのかな」という声もお見かけしますが、外音を遮断してしまうと、自分の家の猫を無視しちゃうことにもなりかねないので、今回はあえて搭載しませんでした。もしもAI技術が発展して、猫の声だけは聴くことができるノイキャン機能などが実現すれば搭載したいですね。社内の人間と協力して、そんなことができたら楽しそうだなと考えています。 最後に、私自身も本当に猫が大好きで、このイヤホンが完成してとても嬉しく思っています。ぜひ猫好きのみなさんに使っていただいて、猫愛をあふれさせていただきたいです。 <取材に協力してくれたみなさん> (ラディウス株式会社) プロダクツ・マーケティング ハードウェア開発部 企画開発2課 2Dデザイン 福井千晴さま プロダクツ・マーケティング ハードウェア開発部 企画開発2課 山下和樹さま プロダクツ・マーケティング ハードウェア開発部 音響・電気回路設計課 主査 漆原康弘さま 新規事業部推進部 APP事業推進課 APP事業推進 舘石凱正さま 取締役営業部長 香田康晴さま [SPEC] ●ドライバー:6.1mmダイナミック型 ●再生周波数帯域:20Hz - 20kHz ●Bluetooth:バージョン5.3 ●対応コーデック:AAC、SBC ●再生可能時間(充電ケース使用時):約3.5時間(約17.5時間)●付属品:USB Type-C to A給電ケーブル、イヤーピース(S/M/L)各1ペアほか ●質量(イヤホン/充電ケース):約3g/約30g
構成:PHILE WEB編集部