驚異的なスピードで目標金額を達成! 7億円を超えた国立科学博物館のクラウドファンディングはなぜ成功したのか 専門家に理由を聞いてみた
ただ、日本における寄付は「チャリティー」が中心だという。渡辺さんは22年に日本NPO学会の学術誌に発表した論文で、日本で「寄付」「寄附」という単語がインターネットで検索された時期は、11年の東日本大震災や16年の熊本地震、20年からの新型コロナウイルス感染症といった緊急時に集中していたことを明らかにした。危機的な状況から救うための寄付がよく集まる傾向にある。 大学への寄付など平時に継続して支援する動きも増えてきてはいるが、渡辺さんは「今困っているわけではないけれど、より良い未来のためにこんなことをやってみたい、といった野心的なプロジェクトにたくさんの寄付が集まる文化は日本ではまだない」と分析している。 ▽「寄付は楽しい」体験の積み重ねが鍵 重要なのは、「あそこに寄付して本当に良かった」「寄付という行為そのものが楽しい」という体験を提供していけるかどうか。前向きな体験が積み重なれば、日本でも寄付の市場が拡大して、緊急時に「マイナスからゼロにする」ための寄付だけでなく「ゼロから100の価値を作っていく」ような取り組みにも継続した支援が集まるかもしれない。
科博が全国の博物館と手を組んで標本の価値を伝えていく活動はその一つ。活動が実を結べば、「チャリティー」への依存を乗り越えた支援の獲得を実現できる可能性がある。 「国立」と名の付く科博の苦境に対して「まず国がしっかりと支援すべきだ」という意見は根強い。渡辺さんは「人々がいろいろな形で社会に意思表示をしていく手段の一つとして寄付を捉えるという考え方がある。国からの運営費交付金がどうであっても、自分が重視する価値を実現している組織に寄付ができて、そういう組織が寄付を募るのは健全な民主主義社会の一つのパーツだ」と訴えつつ、こう付け加える。「国立の研究所などは膨大な受益者がいるけれど、それを自覚していない人も非常に多い。自分たちの暮らしがいろいろな組織や技術者、研究の蓄積の上にあるのだと、教育を通じて人々に伝えていくのも非常に大事だ」。