驚異的なスピードで目標金額を達成! 7億円を超えた国立科学博物館のクラウドファンディングはなぜ成功したのか 専門家に理由を聞いてみた
まずは「受益者の多さ」だ。過去に科博を訪れ「勉強になった」「面白かった」と感じた人の多さと言い換えても良い。価値の高いコレクションを大量に収蔵していて、かつ比較的安い入館料で楽しめる科博には、全国から年間200万人以上が訪れる。展示や研究といったこれまでの博物館としての活動が培った信頼がクラウドファンディングの成功に大きく貢献したとみられる。 次に挙げるのが「館長が積極的に関わっている」点だ。寄付を集める方法を考え、博物館としてのブランド戦略や広報戦略を練り上げるには組織全体で動く必要がある。科博は今回、篠田館長が前面に出て、寄付を呼びかけた。「資金を集める手だてを講じるために適切な投資をすれば寄付が集まる。そのための人員配置や高度な戦略の検討には組織のトップの関与が重要な役割を果たす」と渡辺さんは解説する。 ちなみに、組織のトップが積極的に寄付を呼びかけているケースとしては、京都大iPS細胞研究所で所長を務めた山中伸弥さんが有名だ。
さらに、寄付募集に踏み切った事情も重要だという。科博が挙げた理由は「コロナ禍による来館者の減少」や「世界情勢の不安による光熱費や資材の高騰」だった。渡辺さんは「コロナ禍や光熱費で危機的な状況にある、というのは市民にとっても非常に理解できる理由。単純で分かりやすく、多くの人が支援する正当性が確保されていた」と指摘する。 今回のクラウドファンディングでは、5千円~1000万円の寄付の枠に合わせて用意された40種類以上の返礼品も注目を集めた。ただ、寄付のマーケティングの分野では「返礼品はむしろ寄付を減らしてしまう」ことを示す研究が多いという。「いざとなったら応援しよう」と思ってる人に対して、「応援してくれたらこれをあげる」と呼びかけると、かえって寄付する気持ちがなえてしまうという理屈だ。 科博は今回、返礼品のある「購入型」の枠のほかに、寄付した金額を税金から控除する「控除型」の枠も用意した。二つの併用によって、元々応援する気持ちを持っていた人の受け皿も作れていたのかもしれない。 ▽全国の博物館を巻き込んだ取り組みに