驚異的なスピードで目標金額を達成! 7億円を超えた国立科学博物館のクラウドファンディングはなぜ成功したのか 専門家に理由を聞いてみた
▽厳しい財政状況に重なる打撃 ほとんどの標本は劣化を防ぐため、紫外線が入らないように窓を設けず、温度や湿度を一定に保った部屋で保管されている。そのため光熱費がかさみ、持ち込まれる標本を受け入れる収蔵スペースも不足していた。 標本や資料の収集と保存は、博物館の根幹をなす事業だ。科博の運営は、主に「国からの運営費交付金」と「入館料の収入」から成り立っている。しかし、運営費交付金は年々少しずつ減っていて、他に獲得している予算も加えてようやく横ばいになるかどうかだ。 厳しい状況にコロナ禍が追い打ちを掛けた。年間270万人程度だった来館者数は、2020年度には5分の1まで落ち込んだ。現状もコロナ禍以前には戻りきっていない。そこに光熱費や資材の高騰ものしかかる。本年度の光熱費は、21年度の約2倍の3・8億円になると見込まれる。 ▽訴えた苦境、あっという間に目標額達成 博物館の事業費や研究費を削って経費を捻出するとしても限界がある。「複数の打撃が重なり、自助努力や国からの補助ではとうてい追いつかない」。8月7日の記者会見で篠田館長は苦境を訴えつつ、世間に向けてこう呼びかけた。「私たちが集める自然史・科学技術史の標本は、未来の日本人全体のための宝。科博が持つ膨大なコレクションを守り、さらに国内に点在する貴重なコレクションの収集活動の継続に対する私たちの活動や思いにご賛同いただけましたら、ご支援をお願いいたします」。
科博の厳しい現状とクラウドファンディングの開始が報じられると、SNSで大きな話題になった。瞬く間に寄付が集まり、開始当日に目標とした1億円を超えた。 その後も寄付額は増えて、既に4万人以上から7億円を超える金額が集まっている。実施をサポートした企業「READYFOR」によると、国内のクラウドファンディングの「文化」枠ではトップの金額だという。また、寄付した人の人数では、「文化」枠だけでなく、国内のクラウドファンディング全体で最多となった。「300万円」「1千万円」といった法人向けの高額な枠での寄付もあった。 篠田館長が「これだけ早く達成できたことに驚いている」とコメントを出すほど驚異的な寄付の集まり方。何が今回の成功をもたらしたのか。 ▽館長が前面に出て寄付呼びかけ 大学やNPO法人など非営利的な組織の寄付募集について、マーケティングの視点から研究する信州大社会基盤研究所の渡辺文隆特任講師は複数の理由を挙げる。