人生にハプニン“グー!”は付き物──エド・はるみと山田ルイ53世が向き合う「その後」の人生
「人は人、自分は自分」
──ブレークから10年後の2018年、2人はそろって転機を迎えた。エドは、同年3月に慶應義塾大学大学院で修士課程を修了。現在も同大学院で研究員として研究を継続中だ。山田も同じ年に『一発屋芸人列伝』で「第24回 編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞 作品賞」を受賞、作家として活動の幅を広げるきっかけとなった。 エド 私の研究は、大きく言うとコミュニケーションです。あのアドラーも言っていますが、「人間の悩みのほとんどは人間関係だ」。そして人は、究極その都度1対1のシーンの積み重ねの中で生きていて、わたしたちは毎日、それによってうれしくなったり、逆に傷ついてネガティブになったり。そして人間は素晴らしくもあり、厄介でもある。そうしたバランスがすごく難しい。社会や時代といっても、でも結局は1対1の人間同士。分かり合えればうれしいけど、行き違ったときは「いや、そうじゃない」ということもたくさんありますよね。 山田 「結局は1対1」(笑)。これまた接近戦ですね。 エド そしてわたしに限らず、人生は自分が思うようにはならない。病気や事故・災害など誰でも思いもしないことに突然見舞われたりもするわけです。そうしたとき、それを捉える自分自身、またその周りにある「社会」や「世間」って何だろう? あらためてそれまでの価値観を見つめ直したい。そんな気持ちで大学院に行って学び直しがしたいと思いました。 山田 僕は最終的に、自分に集中することが、人生のコストパフォーマンスが一番良いという結論に至りました。周りとの比較で、「あいつよりも俺のほうが……」とか思いだすとしんどい。若いときは、「なにくそ!」と奮起するきっかけ、ガソリンになり得ましたが、この年齢になると、妬(ねた)み嫉(そね)みはもう嗜好品、贅沢品の部類。といってもエゴサーチは相変わらず好きですけど(笑)。
エド 今は情報過多なので、他の人の状況を見ることも大事ですけど、それはいったん脇に置いて、自分はどうしたいのか? 自分はどういう状態が幸せなのか? それを考えてみる。「人は人、自分は自分」と。 山田 昔、母親によく言われたヤツ(笑)。僕は今「作家」とか呼んでいただくこともありますが、恥ずかしいので、「いや、ただのまねごとです」とすぐ訂正してます。別に「その後」みたいには思ってないですし。そもそも芸人の仕事もやってますから……オファーが少ないだけで(笑)。物書き仕事でも「面白かった」「笑った」という感想が一番ありがたい。まったく別のことをやっているという気持ちはないですね。 エド わたしは、後悔しないようにやりたいと思ったことは全てやろうと。例えば2019年はトライアスロン完走、二科展(絵画部門で入選)、彫刻、落語、接近戦、ゲーム開発、YouTube開設などいろいろやってみました。 山田 僕、「あんまり生き生きしたくない」「なるべくつまらなく暮らしたい」とつねづね思っている人間なので、今「しんどそー……」と言いそうになりました(笑)。この先のことも、娘が成人するまで飯を食わせて、あとは無事棺桶にたどり着く、くらいしか考えてない。それにしてもエドさんは本当にいろいろやりますね。 エド あと……小説を1本は書いてみたいですね。わたしたちの命はいつかなくなってしまう。もちろん絵や小説もいつかはなくなるんですが。でも、ちょっとは寿命が、自分がいなくなった後でも少しは残るから。 山田 いや、「グー!」は残ると思いますよ? 髭男爵という単語もOfficial髭男dismさんのおかげで末永く残りそうですし(笑)。ちなみにお笑いのほうは? エド いつかまたネタをやりたい気持ちはあります。ただタイミングとして、まずは博士号まで取れるよう研究を進めて、その研究成果を例えばカードゲームのように、日常の中で使えるような形ある成果につなげたい。それが一段落してから、挑戦できたらと思っています。 山田 エド博士、いい響きですね。 エド ありがとうございます。学術と笑顔をつなげられたら最高です! --- エド・はるみ タレント。研究者やアーティストとしても活動する。2019年、YouTubeチャンネル「エド先生のYouTube」を開設。『30日で人生を変えるマナーの本』(ジョルダン)、『ネガポジ反転で人生が楽になる』(日経BP)など。 山田ルイ53世 お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。「新潮45」で連載した「一発屋芸人列伝」が、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞 作品賞」を受賞。近著は『パパが貴族』(双葉社)。