相撲協会にバレないうちに…”K-1転向”を決断した曙は九州場所直前に東関部屋宿舎から”夜逃げ”した
曙のK-1転向に日本相撲協会は
大相撲番組とプロレス中継を手掛けた往年のテレビマンの証言だけに、信憑性は低くないと見てよく、日本相撲協会はあの手この手で人気力士を引き留めて、プロレス転向の青写真は御破算となった。皮肉なことに、九州場所を舞台に似たようなことが、弟子の曙に起きようとしていたのである。 曙がK-1転向に傾きつつあることを感じ取った谷川貞治は、まず、日本相撲協会の規約を調べた。一般的に公開されている定款には「総則」から始まり「理事会」「年寄名跡及び年寄」「力士及び行司その他」などからなる16章が定められ、いずれも、日本相撲協会を退職した後の行動まで制限するものでも、身柄を束縛するものでもなかった。となると、最も警戒すべきは引き留めとなろう。高見山の場合は多額の違約金を用意して翻意させたというが、曙に至っては契約すら結んでおらず、違約金という段階にもない。 とすれば、無事、締結にこぎつけられたら、「早急に曙の身柄を確保して、外部との接触を遮断する以外の方法はない」と谷川は考えた。はたして、それは可能だろうか。 そこで、谷川が考えたのは物理的な方法だった。東関部屋の宿舎から、曙の私物を消してしまうこと。すなわち“夜逃げ”だったのである。
細田 昌志(総合作家)