健康長寿のためには「中の上」あたりの地位がいい ストレスを感じるCEOは加齢が速いという衝撃
■最高権力者になると早死にする たとえば、壊滅的なパンデミックのときにデルタ航空やブリティッシュ・エアウェイズで権力の座にあるほうが、ウェブカメラや自宅用の運動器具を売る企業のCEOでいるよりも、おそらく有害なストレスを多く受けるだろう。 ボーグシュルトらはそのような前提に基づき、業界全体が大きな危機を経験している企業を支配していたCEOと、そうでないCEOを比べた。 すると果たして、業界が悲惨な目に遭っている期間に企業を経営していたCEOのほうが、そうでないCEOよりも早く亡くなっていた。
『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』誌に発表された調査でも同様の結果が見られた。数世紀という期間で17カ国を対象としたその調査では、選挙に勝って公職に就いた政治家は、次点で敗れて公職に就かなかった人よりも早く亡くなったことがわかった。政治的な争いの中で職務に就くことから来るストレスの重荷が、政治家の寿命を縮めるらしい。 というわけで、一部の証拠は、最高権力者になると早死にすることを示している。だが、生きている間はどうなのか? とりわけストレスの多い時期に直面したCEOは、そうでないCEOよりも加齢が速いように見えるだろうか?
この加齢は、DNA時計を使って測定した加齢とは別個のものだ。私たちのゲノムの中の化学的指標ではなく外見に焦点を当てているからだ。 それでも、ストレスに基づく加齢という概念は馴染みのないものではないはずだ。 私たちの誰もが、就任前と退任後のアメリカの大統領の写真を目にしたことがあるだろう。若々しい姿でホワイトハウスに入ったものの、4年後あるいは8年後にそこを去るときには、皺(しわ)が増え、髪には白いものがたっぷり交じっている。
■機械学習を使った科学的な精査 だが、マーク・ボーグシュルトが率いる研究者たちは、私たちが気づくように思えるその作用が科学的な精査に耐えるかどうかを、体系的に調べてみたかった。 彼らは確認手段として機械学習を使った。利用したコンピューターコードは複雑だったが、発想は単純だ。 25万人分の顔写真をコンピューターに読み込ませ、人間の加齢の身体的指標の識別を「学習」できるようにした。皺、白髪、耳毛……。時とともにコンピューターのモデルが洗練され、歳を重ねるにつれて現れる微妙な変化を――人間の目では見分けがつかないかもしれないような違いさえ――見つけるのが、しだいにうまくなった。