「ロシア人の4割は戦争に反対だ」それでも反対意見を封殺する「恐怖・貧困・プロパガンダ」によるプーチンの統治システム
対ロシア制裁はプロパガンダの格好の材料
イワンさん(40代、男性) 「プーチン大統領が、何からロシアを救ったというのですか。民主主義から、救ったとでもいうのですか。奇妙な質問ですね。 1990年代は、まだ裁判所は機能していました。でも今は違います。人権問題を裁判所に訴えたら、100%敗訴するのです。もう、ロシアに裁判所などというものは存在しないも同然です。 プーチン氏は、短期間だけの大統領ならよかったでしょう。でも、結局彼が成し遂げたのは、自分自身と、自分の取り巻きの生活を良くしたということだけです。 ただ、現在の欧米によるロシアへの経済制裁については、見直しが必要だと思います。一般人にあまりに大きな影響を与えているからです。それが、プーチン政権のプロパガンダにいいように利用されています。 例えばヨーロッパには、ロシア人が直接渡航できないようにしている国々があります。しかし、このような制裁は、『西側は、ロシア人を敵視している』というプーチン政権のプロパガンダの格好の材料になっているのです。 また、ヨーロッパへの渡航が制限されたことで、従来はヨーロッパに行って現地の人々と意見を自由に交わすことができましたが、それができなくなったために、海外からの情報が入らなくなりました。これも、人々がプロパガンダを受け入れる素地になっています。 プーチン氏は、とてもプラグマティック(実務主義的)な人間でもあるのです。ロシア人の扱い方を熟知している。その事実を理解しなくてはいけません。 実際には、ロシア人の四割は、ウクライナ侵攻に反対していると思います。侵攻に反対する人がごくわずかという社会調査の結果は、本当の意見を言えないからそうなっているだけなのです。その点は理解してほしい。 現在の対ロシア制裁は、昔のユダヤ人に対する弾圧に近いものがあるように感じます。世界中で、ロシアの文化、言語が否定されているようです。これも、プーチン氏に利用されています。〝ロシアの文化、言語が攻撃されている。私は、あなた方のために、戦っているのだ〟と主張できるからです。 あと、ロシアの航空機の部品の輸出を止めているのも問題でしょう。民間航空機が墜落しかねないからです。これも、ロシア人から見ると、欧米がロシアの民間人を攻撃しているかのように受け止められています。繰り返しですが、このような状況は、プーチン氏のプロパガンダにとり、極めて好都合なのです」 4人の声は、いずれも示唆深い内容だった。特に、イワンさんが語った「ロシア人の4割は戦争に反対している」との指摘は、ロシア国民の本音を理解する上で重要と思う。本当の意見を、言いたくても言えない。仮に、社会調査という文脈であっても、人々は危険を感じとり、本能的に自分の心を隠している現実がわかる。 連載第3回『汚職と脅迫に基づくプーチンの超長期政権 権力の私物化が招いたウクライナ侵攻』(9月13日公開)に続く
黒川信雄