「ロシア人の4割は戦争に反対だ」それでも反対意見を封殺する「恐怖・貧困・プロパガンダ」によるプーチンの統治システム
開戦から2年以上が経過したウクライナ戦争。この戦争の趨勢を見極めるには、ロシア・ウクライナ双方の国民の「意思」を、注意深く見定める必要があります。 2024年3月の大統領選で、得票率87%と「圧勝」したプーチン大統領。だが彼への支持率は、どこまで信用できる数字なのか? ロシア人の生の声と、プーチン氏の人生を追い、ロシアにおけるプーチン支持の実像に迫る。 *本記事は黒川信雄氏の著書『空爆と制裁 元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』(ウェッジ)の一部を抜粋したものです。 連載第1回はこちらから 【画像】「ロシア人の4割は戦争に反対だ」それでも反対意見を封殺する「恐怖・貧困・プロパガンダ」によるプーチンの統治システム プーチン氏は本当にロシアを一九九〇年代の混乱から救ったのか? 同氏に対するロシア国内の高い支持率は、どれほど実態を伴うものなのか? そのような疑問への答えを見つけようと、海外に在住する数人の三〇~四〇代の一般のロシア人に、率直な意見を語ってもらった。
恐怖とプロパガンダで国を統治
セルゲイさん(50代、男性) 「プーチン氏がロシアを1990年代の混乱から救ったという意見は、絶対に違うと思います。なぜ2000年代にロシア経済が回復したのか。それは1998年のデフォルト(債務不履行)後に外貨が国に流入し始めたからです。 ソ連崩壊後、ロシアは自由に利用できる石油や天然ガスなどの天然資源を受け継ぎました。その資源という財産は、当時のロシアの指導者のもとに突然転がり込み、当時のオリガルヒ(新興寡占資本家)の間で分割が始まりました。 プーチン氏が権力を握ると、メディア、石油、天然ガス、その他のさまざまな産業で、競争相手を排除していきました。オリガルヒであった、ホドルコフスキー氏が投獄され、ベレゾフスキー氏が排除されたのです。その結果、プーチン氏は彼らが保有していた資産を自身の取り巻きらに与え、自身もまた、これらの産業の公然、または影の、トップであり続けています。 天然資源を輸出するという行為は正しいです。しかし、結果としてこれがロシア経済を〝殺した〟のだと僕は考えています。例えばノルウェーを見てください。ロシアと同様に、この国は天然資源を輸出する国です。しかし、資源輸出で得られた資金は、特別な基金に送られ、国内で使われることはありません。国家予算の主な収入源は資源輸出ではなく、テクノロジーやサービスといった、ほかの産業から得られています。一方でロシアは、これらの産業は発展していません。天然資源以外の分野への投資は、汚職などの問題で、うまくいかなかったからです。 汚職こそが、プーチン氏の主な功績です。彼は、垂直型の統治構造を構築し、その管理を円滑にするために、〝汚職〟や〝横領〟を容認しました。これは、外貨収入に対しても行われています。プーチン氏は、自分とその取り巻きを裕福にするためにすべてを行ったが、ロシア自体のためには何もしなかったのだと思います。