「長崎 大切に取っておく記憶」カズオ・イシグロ氏 映画・遠い山なみの光、今夏公開
戦後80年となる今夏の全国公開が予定される日英合作映画「遠い山なみの光」(石川慶監督、主演・広瀬すず)は、長崎市出身の英国人ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロ氏の初の長編小説(1982年)が原作。イシグロ氏は映画のエグゼクティブ・プロデューサーとしても関わっている。長崎新聞社の「メールインタビュー」でイシグロ氏は、この小説を執筆した動機について、幼い頃に離れた日本が「とても大切な場所」であり、記憶が消え去ってしまう前に「小説の中に再現することで守り、大切に取っておく、ということでした」と振り返っている。 物語は、戦後間もない1950年代の長崎と80年代の英国を舞台に、心に痛みを抱えた人々の姿と、複雑に入り交じる「記憶」について描いている。 イシグロ氏は、映画化したいという話を石川監督から聞いたとき、「胸が躍る思い」だったという。 「若い世代の日本の方がこの物語に興味を示してくれたことは、私にとって驚きであり喜びでした。そして何より、この物語が時代や世代を超えて受け継がれていくことに、小説家として深い感慨を覚えました」と率直に心情を明かす。さらに小説執筆の根源的な意味合いについても言及し、「物語を紡ぐとき、私はいつも願っています。それが同じ時代を生きる読者だけでなく、異なる時代の誰かの心にも響き、届いてほしいと。昔語りの童話や古典文学のように、世代を超えて読み継がれ、受け手たちがそれぞれの時代に合わせて新たな解釈を加え、形を変えていく-それこそが物語の力であり、私が憧れる理想です」と記した。 監督や出演者らが、物語に現代の視点を加えながら、新たな命をどう吹き込むのか-。「大いなる期待を抱いています。この映画がどのように生まれ変わるのか、今から楽しみでなりません」としている。