シティボーイが一人前になるための普段着。
ジャケットを長く大事に着るには日々のケアが重要である。帰宅後、ジャケットを脱ぐや否やブラッシングする習慣を身につければ、汚れやホコリの蓄積を防ぎ、見えない繊維の絡まりを整えることができる。ブラシは少々力を込めて叩くように掛ける。柔らかい馬毛なら生地を傷める心配もない。
自分の体型を心得る。
意外かもしれないが、体格のいい人にはシングルが、スリムな人にはダブルがベターとされている。感覚的に逆だと思っていたが、これは欧米に古くからある方法論で、ポイントはVゾーンの面積。面積が広いシングルには縦長効果が、狭いダブルには膨張効果がある。シングルでもVゾーンが最大になるワンボタンは背の低い人に、最小のスリーボタンは背の高い人に向くという。あくまでも方法論だが、自分の体型を客観的に把握するのは大事だね。
ツイードを長く大事に着る。
突然、ツイードジャケットに袖を通しても、ツイードの本当の魅力には気づかない。硬くてゴワゴワしていて、正直着づらいものだが、『ダーティハリー』のクリント・イーストウッドが着るツイードは体に馴染んでいて貫禄もある。白洲次郎先輩も「3年は我慢」と語っていたように、年を重ねてようやく、柔和でいい表情になっていくのが、ツイードの魅力である。
日本のツイードの歴史を知る。
ツイードの日本史は約100年前まで遡る。柳宗悦や志賀直哉などの白樺派が、イギリスのカントリージェントルマンのライフスタイルに影響を受け、日本橋の『丸善』に生地の輸入を働きかけたのがひとつ。その前夜、岩手には製造方法が伝わり、ホームスパン(小さな共同体で作れる織物)という愛称で今も手紡ぎ手織りの技法が受け継がれる。かの宮沢賢治は、農閑期の仕事として奨励し、自身もツイードのジャケットを愛したという。日本にもいいツイードは存在するのだ。
正統も崩し方も知っている。
スーツは大人の服ゆえに明確なルールが横たわっている。ベルトと靴の色は揃えたほうが無難とか、異なる柄を重ねないほうがベターとか。なのに、である。英国人俳優のトム・ヒドルストンは、チェックとストライプとドットを一度に全部コーディネート。写真の巨匠、ウィリアム・エグルストン先生はだいたいボウタイを結ばないし、映画監督のスパイク・リーは、いつもどおりのブラックカルチャースタイル。