液晶脱却、黒字化急ぐシャープ…EV参入で問われる独自性
液晶事業の構造改革や新規事業への継続的な投資など課題が山積するシャープ―。同社の技術展示会「シャープTech―Day(テックデー)’24」を17日に開幕する。数年後に参入するという電気自動車(EV)事業をはじめ、技術や製品をアピールしてビジネスチャンスにつなげる狙いだ。ただ、目玉のEVは親会社である台湾・鴻海精密工業の協力なしでは実現できず、シャープの独自性がどこまで発揮できるか未知数だ。厳しい環境下で、経営の主体性を取り戻せるかが問われている。 【写真】シャープのEV事業 「生活の中で人工知能(AI)の利便性を享受できる世界観を作っていきたい」。テックデーの事前説明会で、シャープの種谷元隆最高技術責任者(CTO)は胸を張った。説明資料にはAIやEVなどの文言が並ぶ。展示会では注力する50超の技術群を紹介する。 中でも目玉はEVのコンセプトモデル「LDK+」。居室の拡張空間という構想を掲げ、IoT(モノのインターネット)家電との連携や大型ディスプレーの設置による快適な車内環境を構築。「駐車時も価値を生み出す」(種谷CTO)EVを目指す。 ただ、シャープには完成車のノウハウがない。量産では鴻海を頼らざるをえない。EVのプラットフォーム(基盤)も鴻海のものを利用する。コンセプトモデルは「少なくとも企画やマーケティングをシャープが実行している」と種谷CTOは話すが、ディスプレーや車両と連携するIoT技術といった特徴も、競争が激しいEV市場では目新しさがない。 EVやAIで優位性を発揮できるのか。また足元では、液晶や半導体などの既存事業の構造改革という課題も残る。シャープは2023年3月期から2期連続の当期赤字を経て、24年5月に液晶を含む「デバイス事業」の構造改革を発表した。テレビ用の大型液晶パネルを生産する堺工場は8月に生産を停止し、今後は土地や建屋をデータセンターや太陽電池の生産に提供することを検討中だ。 他社との協業は詳細が明らかでないが、場所貸しだけでは将来の成長につながらない。継続する中小型液晶も用途が減りつつあり、黒字化の道筋を早急に示す必要がある。 シャープと言えば、組織横断の迅速な開発により、競合の手がけない独自製品を市場に投入できるところが強みだった。ある中堅社員は「スタートアップのようなスピード感や熱量のある会社だった。そのDNAは今も残っているはずだ」と振り返る。 一方、現在は成長をけん引する製品や事業が見当たらず、一部の株主は「ヒット商品がない」と厳しい目を向ける。「鴻海傘下に入ってから5年ほど新規開発にほとんど投資ができていなかった」と沖津雅浩社長が振り返るように、液晶事業からの脱却に体力を奪われ、鴻海の助力も十分に得られなかったためだ。 成長軌道に復帰するには、家電や複合機などの「ブランド事業」から成長領域を創出する必要がある。技術展示会は、この問題に対する現時点の回答とも言える。 EVやAIの強みが見えない中、独自性のある製品を生み出すには、鴻海の協力を引き出しつつも投資判断を含めた主体性を取り戻せるかが課題になる。