オンラインレッスンで「性被害」、日本人女性が警察に相談も罪に問えず…海外在住の自称・退役軍人による卑劣な手口
●せっかくの活躍の機会に水を差されたくない
ただ、森本さんには泣き寝入りする考えはない。同様のサービスはいくつもあり、一度アカウントを凍結されたユーザーが、別のサービスで何度も行為を繰り返すことは可能だ。 「海外の企業のサービスであり、かつ海外在住の人間を相手にしているから罪に問えないと諦めてしまっては、私のような被害者がいなくなることはありません。この問題を広く知ってもらいたいです」 オンライン英会話のセクハラ行為をめぐっては、国内の日本人生徒による外国人講師へのハラスメントや下半身露出の実態について、朝日新聞デジタルが今年7月に報じている。今回の森本さんのケースは、加害側が海外にいることからも、より違法性を問うハードルが高いのではないだろうか。 森本さんによると、日本語を英語で教える仕事は、駐在員の家族への家庭教師や外資系企業の研修など、国内では場面が限られていたが、オンラインツールによって活躍の場が広がったという。 レッスンの時給は35ドル(約5000円)に設定して、「円安の影響もあって割の良い仕事」。もっと高い授業料にしている講師もいる。 画面の向こう側にいたジョンの罪を問えるのだろうか。わいせつ事件に詳しい奥村徹弁護士に聞いた。
●わいせつ事件の専門家「適当な対応策がないのが現状」
――日本と海外(今回はアメリカとみられる)を結んだ1対1のオンラインのやりとりで、ジョンが下半身を露出して射精する様子を見せた行為について、警察は「1対1のやりとりは公然わいせつに問えない」と説明しました。なぜ1対1では公然わいせつに問えないのでしょうか 伝統的に、公然とは、「不特定又は多数の人」が認識することのできる状態をいい、現実に「不特定又は多数の人」が認識する必要はなく、その認識の可能性があれば足りると解釈されています。 「不特定又は多数の者」とされるのは、公然わいせつ罪の保護法益が健全な性秩序ないし性的風俗と理解されているからです。 なお、公然わいせつ罪の国外犯には日本刑法は適用されませんが(刑法3条の2)、オンラインレッスンのように回線を結んで送信している場合には、実行行為の一部が日本国内にあるから日本刑法が適用可能(刑法1条1項)と考えられる可能性があります。 ――1対1でも公然わいせつに問える例外はないでしょうか 最近では、1対1のツーショットダイヤルで陰部露出した事例で、相手方が現に少数であっても「不特定又は多数の者」を勧誘した結果であったり、反復する意図がある場合には結局「不特定又は多数の者」が認識しうる状態である(最決S31.3.6裁集刑112号601号、最決S33.9.5刑集12巻13号2844頁、大阪高裁S30.6.10高刑集8巻5号649頁)として、公然わいせつ罪の成立を認めた裁判例(東京地裁H22.6.30)があります。 今回のジョンが、同様の行為を反復している場合には、公然性をみたす可能性があります。 ただし、日本警察の捜査権は、基本的には日本国内に限定されるので、公然性の立証は困難だと思います。 ――ほかにどのような犯罪が成立すると考えられるでしょうか 運営会社に対する業務妨害罪や、反復されるときにはストーカー罪などは検討されるでしょうが、いずれも国籍をまたぐと立証困難のため、現実的ではないでしょう。 ――相手は海外在住の外国人です。日本への引き渡しもできるのでしょうか 犯罪人引き渡しについては、日本とアメリカ・韓国の間には条約がありますが、たとえば、日本国とアメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約では、対象罪名が「両締約国の法令により死刑又は無期若しくは長期1年を超える拘禁刑に処することとされているもの」などと重罪に限定されていますので、公然わいせつ罪(最高懲役6カ月)は対象外になっています。