遠藤航がリヴァプールで不可欠な存在になるまで。恩師が導いた2つのターニングポイントと原点
幻となった5人目のキッカー。大舞台で示した強靭な精神力
湘南から浦和、ベルギーのシントトロイデンをへて加入したドイツ・ブンデスリーガのシュツットガルトでは、いつしか「デュエルキング」の異名を取った。自身の引き出しのなかにあるボール奪取力、ファウルにならないポジショニングなどに、さらに磨きをかけた日々の努力が反映された結果となる。 昨夏の移籍期限ぎりぎりでリヴァプールへ電撃移籍したのも、クラブの中盤に欠けていた相手を潰す守備力をユルゲン・クロップ監督に見込まれたからだ。湘南時代に基礎が築かれ、すべてのプレーで平均値を上げてきたその後の地道な作業がいま、大輪の花を咲かせようとしている。 もうひとつ、湘南時代から遠藤の体に搭載されている能力がある。2013シーズン以降もPKキッカーを任された遠藤は、2015シーズンは4ゴールのうち3つをPKで決めている。あるとき、曺監督に遠藤に大役を託している理由を聞いた。返ってきたのは意外な言葉だった。 「たとえPKを外したとしても、その後のプレーが何も変わらない選手に蹴らせている」 もちろん「決める力があるからですよ」とつけ加えるのも忘れなかったが、指揮官の言葉から伝わってきたのは、いい意味でふてぶてしいと表現できる、遠藤の頼もしいまでの強靱な精神力だった。 日本の悲願でもあるベスト8進出への夢が絶たれた、クロアチア代表とのワールドカップ・カタール大会のラウンド16。天国と地獄を分け隔てる運命のPK戦で、森保ジャパンは4人目を務めたキャプテン、DF吉田麻也が失敗した直後に終焉を迎えた。 PK戦直前に組んだ円陣で、森保一監督が選手たちの立候補を募って決まった順番。最もプレッシャーがかかるキッカーとなりかねない5人目で、スタンバイしていたのが実は遠藤だった。大会後に出演した日本のテレビ番組で、挙手を躊躇しなかったのか、と問われた遠藤はこう答えている。 「ワールドカップという舞台でPKを蹴れるチャンスは、人生でもなかなかないと思うので」