遠藤航がリヴァプールで不可欠な存在になるまで。恩師が導いた2つのターニングポイントと原点
原点は恩師のコンバート「球際での激しさを求められるポジションで」
迎えた2013シーズン。開幕前のタイキャンプで右太もも裏に肉離れを負った遠藤は、長期離脱を余儀なくされてしまった。戦列復帰を果たしたのは7月10日の柏戦。しかし、前シーズンと同じく3バックの真ん中に遠藤を配置し、ラインコントロールやカバーリングを任せた曺監督のなかで疑念が頭をもたげてきた。 「これから先、世界の舞台に出ていく可能性を秘めている20歳の選手に、最終ラインをコントロールする、味方が競ったこぼれ球を拾うプレーを含めたカバーリングをさせる、あるいは縦パスを配給させるプレーを求めるだけではあまりに可哀想というか、いくらチーム事情があるとはいえ、ちょっと違うのではないかと思ったんです。航がさらに成長を遂げていくためには、もっと1対1で勝負する場面を増やして、もっともっと攻撃能力をつけていく必要がある、と」 弾き出された結論はシーズン途中での3バックの右へのコンバート。復帰から10試合目となった8月31日のベガルタ仙台戦から、新たなポジションを任せた遠藤へ指揮官はこんな言葉をかけている。 「相手との1対1にどんどん勝って、攻撃面でもっと前へ出ていってみろ」 オフにはヨーロッパを行脚し、サッカーのトレンドを常にチェックしていた曺監督は、3バックの真ん中、いわゆるリベロというポジションが、ごく近い将来に絶滅危惧種になるのではと考えていた。 横浜F・マリノスのアカデミーのセレクションで不合格になるなど、ほぼ無名の存在だった遠藤に稀有な可能性を感じ、中学時代に湘南のアカデミーへスカウトしたのは実は曺監督だった。 湘南という一クラブの監督とすれば、遠藤にリベロを任せれば安心できる。しかし、日本サッカー界に携わる指導者の一人として将来を考えれば、違った起用法があるのではないか。自問自答を繰り返した末に、いまも恩師と慕う曺監督が決断したコンバートを遠藤自身もポジティブに受け止めた。 「曺さんのなかでは、おそらく『3バックの真ん中ならいつでもできる』という考えもあったと思う。プレーの幅を広げて、さらに成長していくチャンスにするためにも『球際での激しさを求められるポジションで、プレーしていった方がいい』とも言ってくれた。僕自身も、いろいろなポジションで使ってくれるのは、むしろ本当にありがたいと思いながら取り組んでいました」