不定期に起こる強い拒絶反応。虐待の後遺症に悩まされていた時「君を治せる」と断言する大学生に出会った
◆俺なら君を治してあげられると思う 男の名前は、もう思い出せない。ここでは、仮名をSとする。Sは物静かな人間で、いつも本を読んでいた。はじめて会った時、待ち合わせのファミレスに文庫本を携えてきた彼を見て、「いいな」と思った。それで、その日のうちに寝た。 当時の私は、男に身体を許すまでのハードルが異様に低かった。「夜を一緒に過ごす以上、性行為を許可せねばならない」――こんな馬鹿げた方程式を、愚かにも信じていた。ひとりの夜を過ごすのが嫌なら、誰かに身体を許すしかない。相手が父親以外なら、誰でもいい。そう思っていた。 ただ、隣にいてほしい。添い寝をしてほしい。うなされたら起こして、「大丈夫だよ」と言ってほしい。それが本当の望みだったが、子どもじみた願望を口に出す勇気はなかった。 Sとの何度目かの行為の最中、突如嘔気が込み上げ、布団の上で嘔吐した。薄い黄土色の吐瀉物が、白いシーツを染めた。ツンと鼻先を掠める臭気にうんざりしながら、掠れた声で「ごめん」と言った。彼はオブラートに一切包むことなく、直球で私に問うた。
◆苦しみを終わらせる方法 「性被害に遭ったことがあるの?」 吐き気が胃の中で渦巻き、脳内を内側から鋭利な刃物でかき混ぜられているような痛みに呻いている最中、すべてにうんざりした私は、面倒になって「そうだ」と応えた。それでこの男との縁が切れるのなら、それでいいと思った。しかし、彼は思いがけない言葉を口にした。「俺なら君を治してあげられると思う」と。 どうかしていた、と今は思う。しかし、藁にもすがる思いで、私は聞き返した。 「本当に、この苦しみを終わらせる方法があるの?」 Sは、「ある」と言い切った。「ただし、そのためには苦しい過程をこなさなければならない」とも。今すでに苦しいのだから、治療の過程で多少苦しんだとしても、そんなのは取るに足らない痛みだ。そう思い、気づいたら懇願していた。 「私を治して」