アウディ、最後の納車でR8 GT3時代に幕……他プログラム廃止でF1計画“オール・イン”。その価値はあるのか?
もうアウディに”逃げ場”はない
さらに懸念すべきは、アウディ首脳陣の混乱だ。ザウバー/アウディF1のアンドレアス・ザイドルCEOとアウディAGのオリバー・ホフマン取締役会長が権力闘争で解雇され、元フェラーリ代表のマッティア・ビノットと、現在レッドブルでスポーティングディレクターを務めるジョナサン・ウィートリーが陣営に加わることとなった。 ビノットはアウディのF1プログラムで最高執行責任者兼最高技術責任者を務め、ウィートリーはアウディのチーム代表を務めることになり、2026年に向けて陣営をベストな状態にするための大仕事へ挑む。 しかし、それは容易なことではない。アウディはニコ・ヒュルケンベルグのチームメイト探しに難航。最終的にはマクラーレン育成出身の新人、ガブリエル・ボルトレトを起用することになった。しかしフェラーリのカルロス・サインツJr.などスタードライバーを引き付けることができなかったという事実は、F1パドックにおいて2026年開幕時に順調な滑り出しを見せることができないプロジェクトだと見なされたことを示している。 アウディとしては、3度目の挑戦で総合優勝を果たしたダカールラリープログラムが励みになるかもしれない。2022年にRS Q e-tronで華々しくデビューを飾ったが、信頼性に難があり、強力なトヨタ・ハイラックスを相手に一矢報いることができず、2023年も後塵を拝した。 そのためアウディのダカールラリー部門は初心に戻ってマシン固有の弱点を修正。その努力が実り、2024年1月、カルロス・サインツSr.を擁して成功を手にした。 RS Q e-tronは技術的な驚異に他ならず、搭載されたパワートレインはDTMで開発された2.0リッターのターボエンジンにフォーミュラEで開発された電動モーターを組み合わせたモノだった。 DTM、フォーミュラE、ダカールで得た知識は計り知れないほど貴重なモノだが、F1用PUは白紙から作り上げる必要がある。アウディのモータースポーツ史上最大の挑戦になるだろう。ディーゼルエンジンを搭載したLMP1車両でさえ、F1マシンに搭載されるPUの複雑さには敵わない。 1ヵ月前までは、2026年に新規参戦する唯一のメーカー系チームとしてアウディに注目が集まっていた。しかしキャデラック/ゼネラルモーターズの参戦が決まったことで、その注目も二分。費用対効果が削がれてしまった。 アウディが全力を尽くして、いずれF1で実績を残す存在になると考えることはできる。しかし、すぐにプログラムが軌道に乗ると考えるのは愚かなことだ。 プログラム責任者のビノットとチーム代表のウィートリーが、チーム運営に自由を与えられ、アウディの取締役会から過度な干渉を受けることなく、洗練されたF1チームとして運営できるようになったとしても、レース勝利やタイトルに挑戦できるようになるまでには数年を要するだろう。 GT3のような既存のレースプログラムがあれば、アウディがF1で歯を食いしばる間、フォーカスを逸らすことができただろう。残念なことに、全てを投げ売ってF1という大舞台に立つアウディに、2026年以降逃げ場はどこにもない。
Rachit Thukral