アウディ、最後の納車でR8 GT3時代に幕……他プログラム廃止でF1計画“オール・イン”。その価値はあるのか?
カスタマーレーシング部門は限られた予算で継続できたはず
「ひとつの時代の終わりだが、アウディにとって非常に重要な役割を果たすことができたのは、私としても名誉なことだった」 ラインケはドイツ紙Donaukurierにそう語った。 「私は以前、LMPプログラムのプロジェクトマネージャーとして、この名誉を得たことがある。それが終わった時、強いシンパシーを抱いていたからこそ、虚無感に襲われた」 アウディのカスタマーレーシング部門には、合計101人が働いていると言われている。アウディR8 LMS GT3の生産が終了した今、スタッフがどうなるかは不明だが、ラインケは競技を離れてモータースポーツ関連のプログラムを続けられることを願っている。 アウディがF1の魅力に引き寄せられた理由は簡単だ。同シリーズは今までないほどの成功を収めているからだ。しかし、このギャンブルに見合うだけの価値が疑問視されるのは、予想されるコストが圧倒的に高いからだ。 この5年間で、アウディはクラス1規定をベースとしたDTMから撤退し、フォーミュラEからも撤退。LMDhプログラムは幻となり、ダカールラリープログラムもわずか3年で消滅……そしてGT3車両の生産を終了した。 もちろん、これらの決断のいくつかはF1参戦という野望が打ち出される前に決まっていたことだが、短い間にあまりにも多くのカテゴリーから撤退してきたことに変わりはない。 GT4やTCRも含め、アウディのカスタマーレーシング部門は独立系チームにマシンやスペアパーツを販売することで直接収益を得ている。それを考えると、限られた投資で継続できたエリアのひとつだと言える。 もちろん、ある時点でアウディはR8 LMSに変わる後継GT3車両を投入する必要があっただろうし、そのためのベースモデルを市販車から見つける必要があったが、それも比較的限られた投資で乗り越えることができたハードルだ。結局のところ、R8のようなスーパーカーを軸にGT3マシンを作る必要はない。実際、ライバルメーカーのBMW M4のように、セダンからGT3車両を開発することもできたはずだ。 F1プログラムが順調に進んでいれば、アウディがF1に全ベットするという決断もまだ理解が得られたかもしれない。しかし直近の半年を見る限り、事態は順調とはいい難い。 アウディはドイツ・ノイブルクのファクトリーで次世代パワーユニットを開発。ザウバーを完全買収してF1に参戦する計画だったものの、ここへ来てカタール投資庁(QIA)に30%の株式を売却した。 シャシー側での進展が予想以上に遅かったことを受けて、アウディがテコ入れを実施したことは称賛に値する。しかし、アウディF1ワークスチームの記念すべき1号車がサーキットを走るまで1年あまり……外部から新たに資金を調達する必要があったというのは、同時に憂慮すべき兆候だ。