フランク ミュラーなど「最旬スケルトンウォッチ」逸品3選|優美な“機械式”の魅力と歴史
時計ジャーナリスト・高木教雄(のりお)さんが、最新の時計事情に加え、高木さんの視点でセレクトした時計3本を紹介します。 たかぎのりお●時計ジャーナリスト。大学では機械工学を学ぶ。スイスで開催される新作時計発表会に加え、時計工房の取材を積極的に行う。世界各国で発表される新作時計発表会などにも多く招待され、この5月はドバイを訪問。著書に『世界一わかりやすい腕時計のしくみ』(世界文化社)など。
【高木視点のセレクト3本】「フランク ミュラー」“ヴァンガード レディ スケルトン”
■透明感と立体感の優れた融合 ケースはグラマラスなカーブを描く。対してスリムなフレーム構造としたスケルトンのダイヤルは、軽やかで透明感が特出。異なる印象がひとつに融合した。 時計[PG、手巻き、ケースサイズ42.3×32㎜]4,565,000円(フランク ミュラー/フランク ミュラー ウォッチランド東京)
「ブルガリ」“ルチェア スケルトン ネーヴェ”
■アイコニックでモダンなスケルトン ダイヤモンドやマザーオブパールをセットした“BVLGARI”の文字がパーツを構成するスケルトンウォッチ。真紅の針とリュウズが絶妙なアクセントに。 時計[ダイヤモンド×マザーオブパール×ルベライト×SS、自動巻き、ケース径33㎜]1,342,000円[日本限定](ブルガリ/ブルガリ ジャパン)
「ピアジェ」“アルティプラノ プレシャス スケルトン”
■宝石が煌めく極薄スケルトン 3.1ミリ厚という極薄のムーブメントをスケルトナイズ。残したフレームにダイヤモンドと、ビスを隠すためのルビーをセットし、絢爛豪華に装わせた。「ピアジェ」らしさが薫る壮麗な逸品。 時計[ダイヤモンド×ルビー×PG、手巻き、ケース径34㎜]14,344,000円(ピアジェ)
機械式時計の仕組みをご存じですか?
地動説で知られるガリレオ・ガリレイは、時計の進化にも偉大な功績を遺している。1583年に「振り子は、ひもの長さが同じなら、振り幅に関係なく往復にかかる時間は同じ」という“振り子の等時性”を発見したのだ。これはひもの長さを調整すれば、求める振動周期が得られることを意味する。これにより、人類は短い周期を正確に計る術を得た。 振り子の等時性を利用した最初の時計は1656年、オランダの科学者クリスティアン・ホイヘンスによって生み出された。彼は振り子と、その振動に準じて歯車を止める、進めるを繰り返す脱進機を組み合わせ、針を取り付けた歯車を正確な周期で動かすことを実現。さらに1675年には、軸が備わる金属の輪に細いヒゲゼンマイを取り付けたテンプを振り子代わりとした時計を考案している。ホイヘンスが発明したテンプは後にゼンマイ[*]と組み合わされ、携帯時計が誕生することとなる。 ゼンマイを動力とし、回転周期をテンプと脱進機とで制御する。現代の機械式時計の基本原理は、ホイヘンスの時代から変わっていない。またムーブメントの各パーツを、それぞれの形状や高さに合わせた凹凸と軸を通す穴とを加工した地板と呼ばれる金属プレートの上で構築し、同じく軸を通す穴をあけたブリッジで固定するという構造も、当時と同じ。400年以上、原理と構造が変わっていないから、機械式時計は100年先まで修理が可能となるのだ。 これら地板とブリッジにオープンワークを施したスケルトンウォッチは、クオーツ式ではかなわない機械式ならではの表現である。ダイヤル側に姿を現すテンプがせわしなく時をカウントする様子が、健気で愛らしい。そしてほかの各パーツは、表に見せるにふさわしい入念な手仕上げが行き渡り、工芸的な美を呈する。 <写真>ガリレオも振り子を用いた時計を考案したが、存命中に完成には至らなかった。写真は、彼の死の直前に描かれた図面に基づいた振り子時計。振り子の支点にある2つの爪が、揺れに応じて歯車を進める。 ゼンマイ[*]帯状の主に金属素材を渦巻状に巻き、渦巻が元に戻ろうとする力を利用する動力源。15世紀初頭には実用化されていた。時計の場合、外周が歯車となった香箱と呼ばれる筒形の箱にゼンマイを収め、それとつながる歯車に動力を伝達する。 編集=大槻奈津子(婦人画報編集部) 『婦人画報』2023年11月号より