忘年会シーズン到来!! でも、昔みたいにバカ食いできない寂しさに今こそ考えたい「胃もたれ」との上手な付き合い方
たまに襲ってくる胃もたれや膨満感が、いつの間にか日常的になっていた――。食べることと飲むことを愛してきた人ほど、「胃の加齢」を自覚することから逃げ、若かりし頃を取り戻すかのように暴飲暴食に走ってしまいがちだ。忘年会シーズンに備え、フードライターの白央篤司(はくおう・あつし)さんに 「胃もたれから始めるセルフケア」を聞いた。 【写真】白央さん愛用の胃薬 * * * ■「昔の胃ではない」という突然の宣告 年末の風物詩は数あれど、誰の心も躍らせないのは、放映頻度が増える胃腸薬のテレビCMだろう。飲み屋街を背景にタレントが威勢良く叫ぶ「食べる前に、のむ!」といったフレーズは、胃の不調など経験したことがない若い頃は、まったく意味がわからない謎の呪文に等しかった。 ところが、呪文の意味が身に染みる日が来る。おいしいものを作り、食べることも仕事としてきた白央篤司さんにとっては、43歳のある夜だった。 「あなたの胃は、もう昔のあなたの胃ではないのですよ」 そう気づかせてくれたのは私の場合、牛カルビだった。昼に焼肉ランチを奮発したところ夜になってもお腹が空かない。むしろなんだか、胃が張って気持ちが悪い。夕飯は控えめにして胃腸薬を飲み、さて寝るか......と思ってもムカムカして寝つけない。 料理や自炊が苦手な人たちが感じる心理的ハードルを、優しく下げるような実用書やエッセーを書いてきた白央さんにとっても、こんな書き出しで始まる最新著『はじめての胃もたれ』は、異色の一冊といえる。 それにしても食べることに人一倍の興味がある人が、「昔の胃ではない」と認識するのはつらくはなかったのだろうか? 「人生最大のストレスでした。大げさに言えば、仕事も続けられなくなるかもしれない。だから、認めるまでには時間がかかりました。たまたま調子が悪かっただけだ、と」 しかし「たまたま」は繰り返され、白央さんは考えを改める。 「数年後に体を壊して満足に食べられなくなってでも、今食べたいだけ食べるのか。それとも毎日少しだけ量を減らしたり、食べるものに気を配ることで今の生活を維持するのか。そう考えると答えは明白でした」 それまでも、飲みすぎた翌日にはなんとなく「消化にいいもの」を作っていたが、管理栄養士への取材で「消化にいい」とは「胃の中にある時間が短い」ことだと学び、日々の食生活を具体的に見直す。加熱したものは消化が早い。肉も野菜もスープや汁物にすることで、消化しやすく、かつ水分も一緒に取るので満腹感も得やすくなる。 また、三大栄養素では脂質が最も消化に時間がかかる。脂質が多くタンパク質が少ないカルビが、胃もたれを引き起こすのは当たり前なのだ。しかしそれでも生野菜やゆで野菜と食べるようにすれば、少ない量でも満足感が得られる。 野菜、タンパク質、炭水化物の順で食べることで血糖値の急な上昇を抑える「ベジタブルファースト」は、中年太りを防ぐために有効な方法だが、サラダやおひたしを準備しなくてもパックのモズクやメカブといった〝海のベジタブル〟を常備することで、ぐっと実践しやすくなる。 また、しっかり噛むことで満腹感が得やすいことは知ってはいても、一食を通してやり続けるのは大変だ。しかし最初のひと口だけ30回噛むことを心がけるだけで、早食いの習性も変えやすくなる。 この本に挙げられた知恵と工夫のハードルは、それほど高くは感じられない。読めば読むほど、「昔の胃ではない」ことを受け入れた生活にシフトできそうな気が、どんどん大きくなってくるのだ。