日本のカワサキ定番カスタムとは一味違う?フランスのカスタムバイクショップ「RASPO CUSTOM GARAGE」
先日、愛車R1100Sの車検を受けてきた。これが初めての車検だ。今年からフランスでもバイクの車検制度が導入された。実は、EU内でバイクの車検がなかったのはフランスだけ。EU規定に従い車検制度を導入するか、それとも罰金を支払うかという選択を迫られたフランスは、数年間罰金を払い続けてきた。しかし、法整備や車検場の準備が整い、ついに車検制度がスタートした。 【画像】Z1300、ZRX1200ベースのゴディエ・ジュヌー・レプリカ、MARTIN Kawasaki Z1000 R、ZXR750など。ラスポ氏が手がけたカスタムバイクのディテール(写真33点) そんなタイミングで、以前ヴェルサイユでのミーティングで知り合ったゴディエ・ジェヌー・レプリカのオーナー、フランソワさんに紹介されたカスタムガレージを訪れることになった。その名も「ラスポ・カスタム・ガレージ」。オーナーはパスカル・ラスポ氏。カワサキのディーラーに勤めていた彼は、退職後に自らのカスタムガレージを立ち上げた。溶接、板金、旋盤加工を得意とし、旧車のレストアからフルカスタムまで幅広く手がけている。 ラスポ氏の手がけるバイクは、ただの修理や改造に留まらない。例えば、エンジンのパワーに対して足回りが貧弱な旧車に、より強力なブレーキを装着するためのマウントやフォークのスタビライザーを製作したり、ZRXのエンジンの腰上にZZRの腰下を組み合わせて5速から6速に変えたりと、かなり高度な技術を駆使している。一見どこのメーカーのバイクかわからないほどのフルカスタムを作り上げることもあるという。 「今のバイクは、全部同じ色に塗ったらどれがどのバイクかわからない。個性的なものが少なくなった」と語るラスポ氏。彼のスタイルは、まだバイクが個性を持っていた時代のデザインを蘇らせることだ。数年間放置されていたバイクをベースにカスタムを行う際には、まずすべて分解し、エンジンやミッションを洗浄して組み直す。セル一発でエンジンが始動することはもちろん、美しい仕上がりを徹底的に追求する。そのこだわりは、カウルのペイントにも表れている。ペイントは外注しているが、彼はその業者を「パートナー」と呼び、ステッカー部分もすべて塗装で仕上げるという徹底ぶりだ。 そんなラスポ氏が今気にしているのは、冒頭に話した車検の影響だ。車検制度が始まったことで、カスタムを希望する顧客が減少しているという。「カスタムすると車検に通らない」という誤解が広まっているためだ。しかし、実際には道交法に適合していればカスタムバイクでも問題なく車検を通過できる。フランスの道交法ではフレームが登録されているため、フレームの加工はほぼ不可能だが、エンジンについては制限がないため、載せ替えや排気量変更も許容される。排ガスや排気音の基準をクリアすれば問題ない。実際、私のR1100Sも社外マフラーを装着していたが、全く問題なく車検に通った。 取材当日は冬のような冷え込みで曇り空だったが、しばらくすると陽が差してきた。「せっかくだから外で写真を撮ろう」とラスポ氏が提案し、ガレージから彼の作品を一台ずつ外に運び出した。それぞれのカスタムポイントを詳しく説明してくれた後、「一番お気に入りのバイクはどれ?」と尋ねると、迷わず一台を指し示した。そのバイクはカウルがないため最高速300km/hには達しないが、ベルギーのSPAフランコルシャン・サーキットのストレートで280km/h以上を記録したという。レース用タイヤを履いているが、ナンバー付きの公道仕様タイヤも用意されており、これで車検もクリアできるとのこと。 ラスポ氏のバイクを眺めていると、日本でよく見られるカワサキの定番カスタムとは一味違う、フランスらしい、そしてラスポ流のアプローチが際立っている。車検制度の開始による影響を気にしてはいるものの、ガレージにはカスタムやレストアを待つバイクが所狭しと並び、その一台一台に注がれるラスポ氏の情熱は計り知れない。彼の笑顔は、決して消えることはなかった。 写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI
櫻井 朋成