「再審の扉」再び開く、逮捕から37年否認し続けた前川彰司さん…袴田巌さん無罪確定「追い風」
逮捕から37年、再審への扉が再び開いた。福井市の女子中学生殺害事件で前川彰司さん(59)の再審開始を認めた23日の名古屋高裁金沢支部決定。捜査段階から一貫して否認してきた前川さんは「とりあえず良かった。ほっとしています」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。一方、2011年に出た再審開始決定は、その後取り消されており、「闘いはまだ続く」と気を引き締めた。 【表】知人証言は信用できない…再審決定のポイント
「再審開始」。23日午前10時過ぎ、高裁金沢支部前で弁護団の1人が、そう書かれた幕を掲げた。まもなく前川さんが手を上げて裁判所の建物から出てくると、集まった40人ほどの支援者から「おめでとう」「良かった」と歓声が上がり、拍手が起こった。
前川さんは報道陣の取材に、再審開始の決定を喜びつつ、「浮かれるわけにはいかない」と繰り返した。
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前川さんは1990年に福井地裁で無罪判決を受けたものの逆転で有罪となり、懲役7年が確定して服役した。出所後の2011年に高裁金沢支部で再審開始決定を受けたが、13年に名古屋高裁で取り消された。前川さんは「絶望感で心が重かった」と振り返り、取り消された後に食べたうどんは味がしなかったという。
14年に最高裁も取り消しを支持。心が折れ、精神的に不安定になった。就寝前、わけもなく涙が出るようになり、「再び棄却されるのが怖い」と、2度目の請求に踏み出せなかった。
背中を押したのは、逮捕直後から弁護団を率いた佐藤辰弥弁護士の存在だ。
佐藤弁護士は、福井地裁での無罪判決後、前川さんを新潟県の実家に招き、母親の手料理でもてなすなど、公私にわたり寄り添ってきた。しかし、難病で22年6月に70歳で亡くなった。
前川さんは、四十九日に福井市内の佐藤弁護士の自宅を訪問。遺影に手を合わせると、自然と涙が出た。「お世話になりました」と感謝の気持ちを伝えると、「勇気を持って再審請求をしなさい」と返ってきたように感じた。