『クワトロ・フォルマッジ -四人の殺し屋-』 【第1話】
【お宅様ですよ、俺の怨みを買ったのは】
本当はここで終わりにしてやるはずだったが名案が閃いた。 俺は奴の後頭部をグリップで叩き、気を失わせると、停めていたマセラティに積んだ。 腹ごしらえの後、ブルームオーラ・ザ ジャーニーの180分シックスハンドで寛ぐつもりだったが、予定変更だ。 閑静な住宅街に着く。ここら一帯は所謂、上流階級に属する者たちが住んでいる。俺は荷物を担いで、その中の一軒を訪れた。 呼び鈴を鳴らすと、傘寿を過ぎた老人が顔を出した。 こいつだ。いかにも温厚そうな年寄りがあんなおぞましい凶行に走ったのだ。 「はい、どなたでしょう」 「お届けものです」 青と白のストライプが流れる宅配業者のユニフォームに着替えた俺を、老人は疑わなかった。 面割れした殺し屋はいない。変装が上手いものほど殺しの腕がいい。この世界の常識だ。 「重たいから中に運びましょうか」 「いいえ、買った覚えはないです」 「お宅様ですよ、俺の怨みを買ったのは」 中に入ろうとして俺は躊躇した。床が見えないほどゴミが敷き詰められていた。靴を脱いだら見当たらなくなると思い、断りなく土足で上がることにした。 みかんの皮、食べ残しのあんパン、空き缶と牛乳パックなど、居間もゴミだらけで足の踏み場もない。異臭が酷い。長居すべきではない。段ボール箱を放り投げる。頭を叩かれた犬みたいな声がすると、中からYouTuberが這い出てきた。ようやく目を覚ましたようだ。 「……どこ、ここ」 「何ですか、ここは!」 YouTuberと老人は顔を見合わせる。互いに目を丸くしている。 俺は奴の顔を蹴って、段ボールの中に戻した。矢庭に暴力沙汰が起こって、老人は驚きを隠せない。 「いったい何が起きているのか、わからないよな」 俺はキャップを脱いで、老人の顔を凝視した。老人は慌てふためいていた。 「あんたは俺の顔を知らない。たぶん自分が何をしたかも知らない。俺がこうして目の前に現れなければ、あんたは死ぬまで自分の罪も知らずに墓の下で眠っていただろう」 俺は拳銃を突きつけた。 YouTuberは箱の中で飛び上がりそうだった。無理もない。知らない奴が自分の拳銃を握っているのだから。 「爺さん、今から一週間前の五月二十五日、あんたは何をした?」 「ひ、人違いだ。身に覚えがない」 老人の開けっぱなしの口から入れ歯が飛び出そうだった。奥の銀歯が鈍い光を放っていた。 「昨日食べたものさえ覚えてなさそうなあんただ。俺が代わりに教えてやる。あんたは年甲斐もなく車を猛スピードで走らせていた。雨の日だった。おまえは、ヒデを轢き殺した」 俺はスマホを取り出して、待ち受けの画面を見せた。 年寄りとYouTuberが、息を止めて俺のスマホに見入った。