「悔しい。最高裁判決なぞった内容」 福島原発避難者訴訟、またも国の賠償責任認めず 原告らに落胆広がる
東京電力福島第1原発事故で避難生活を余儀なくされ精神的な苦痛を受けたとして、福島、埼玉県、東京都から広島県へ避難した15世帯37人が、国と東電に1人当たり1100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が16日、広島地裁であった。吉岡茂之裁判長は、国の賠償責任は認めず、東電に対し、福島県内から避難した33人に計2412万円を支払うよう命じた。 【画像】「悔しい」報告集会でマイクを取る原告団 吉岡裁判長は、東日本大震災について、2002年に公表された国の地震予測「長期評価」の想定よりも、はるかに規模が大きかったと指摘。長期評価を基に国が東電に防潮堤設置などの対策を義務付けていたとしても「津波の到来で大量の海水が敷地に浸入することは避けられなかった可能性が高く、事故が発生するに至った可能性が相当にある」と国の責任を否定した。 一方、東電に対しては平穏な生活が壊されたことによる精神的損害は「原子力損害賠償法に基づいて賠償すべき損害に当たる」と判断。原発からの距離や放射線量などを踏まえ、福島県内の33人について東電から既に支払われた賠償金を差し引いた金額(1人につき22万~275万円)の支払いを命じた。東京、埼玉からの避難者3人と、当時胎児だった福島県内の1人についての請求は棄却した。 同地裁への初提訴は、原発事故から3年半後の14年9月。以降3回の追加の提訴があった。原告の代理人弁護士によると、同様の訴訟は各地で起こされ、24件が係争中。国の賠償責任を認めない最高裁判決が22年6月に出て以降、東電だけに賠償を命じる判断が続いている。
報告集会、原告に落胆広がる
「悔しい。最高裁の判決をなぞったような内容だ」。国の責任を認めず、東電だけに賠償を命じた16日の広島地裁判決。判決後、広島市中区で開かれた報告集会ではこの日を待ちわびた原告たちに落胆が広がった。 福島市から実家のある広島市安佐北区に避難している渡部美和原告団長(49)は被爆者の苦しみにも思いを寄せ、諦めまいと過ごしてきた。提訴から10年。「国の責任が認められず、起こったものは仕方がないと片付けられてしまうと、私たちの存在がないものにされてしまう」とやるせない思いを口にした。 原告で、訴訟の代理人も務める石森雄一郎弁護士(45)は原発事故から2年後に福島県郡山市から広島市に移り住んだ。コミュニティーが分断される姿を目の当たりにし、自身も家庭が壊れそうになったと語り「裁判所には原発事故がなぜ起きたのか、どういった損害が原告に起きているのか、もっと踏み込んで判断してほしかった」と批判。国の責任を否定した最高裁判決を書き写したような内容と残念がった。
中国新聞社