「聞こえにくい高齢の親と意思疎通ができず認知症も心配」難聴と認知症の最新事情をレポート【医師解説】
2017年、難聴と認知症の関係を初めて示唆
難聴と認知症の関連性について初めて言及され、世界的に認識が広がるきっかけとなったのは、2017年にランセット国際委員会で発表されたレポートです。このレポートでは、認知症の危険因子(リスク因子)として、高血圧や肥満、糖尿病などの要因と一緒に、「難聴」が挙げられました。これらのリスク因子は修正可能で、認知症の予防や進行を遅らせることができるとされています。 難聴は、これまでは「耳が聞こえにくい=年だから仕方がない」と済まされることも多かったかと思います。しかし実は、聞こえにくいということは、会話がし難いというだけでなく、さまざまなリスクをはらんでいるということが、多くの研究で明らかになりつつあります。
医師が語る難聴研究の最新事情
認知症と難聴にまつわる最新事情や対策について、国立病院機構 東京医療センター・聴覚障害研究室の室長の神崎晶さんにお話を伺いました。 「初めて2017年に発表されたランセット国際委員会の報告は、非常にセンセーショナルな話題として、世界中に取り上げられました。2024年の最新版では、さらに全部で14の危険因子が挙げられ、それらに適切に介入し対処することができれば、認知症の45%が予防できるとされています。 中でも難聴へのアプローチは、寄与率が7%と最も高い影響を持つとされています。 ただし、難聴にどの程度対処することができるのか、そして認知症予防にとってどのくらいの効果影響力があるのかという点については、まだ、十分なエビデンスが揃っていないという状況です」(神崎さん)
補聴器をつけることで認知機能低下は防げるの?
「果たして補聴器によって認知機能低下の予防効果はあるのか?」多くの方が、もっとも気になるところではないでしょうか。 「2023年に、同じくランセットで発表された、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のフランク・R・リン教授の研究(※1)では、興味深い結果が出ています。 70~84才の認知機能が正常な難聴者(977名)を、「補聴器を使用する人」と「使用せず医学講座を聴講する人」に無作為に割り当てました。そして、それらの人々に対し、半年に1回認知機能を評価しました。3年間の追跡調査の結果、補聴器をつけていた人とつけていなかった人では、認知機能低下への優位な差はなく、補聴器による効果はなかったとされています。 しかし、同年代で認知機能は正常な対象者の中で、心不全・不整脈などの心血管系に異常がある「認知機能低下の高リスク群」で比較した場合、「補聴器を使用している人」の認知機能の低下が48%抑制されたという結果が出ています。 心血管系の疾患は日本人の死因の第2位とされているため、気になる結果ではあります」 2019年にアメリカの耳鼻咽喉科関連の医学雑誌『Annals of Otology, Rhinology & Laryngology』(※2)に掲載されたハリソン・リン氏による論文では、アメリカでの18才以上のサンプルでの5年後の死亡率は、すべての平均で4.2%でした。しかし、聴力がかなり低下している人に限ると19.5%にも上ります。聴こえにくさは死亡率のリスク上昇と関連している可能性があると考えられます。 また、難聴のほかに、もう一つ感覚器に異常があると、さらに死亡リスクが高くなるという研究結果(※3)もあり、論文の最後には、難聴を扱う医師は、『難聴が全身の健康状態や寿命に及ぼす影響を考慮する必要がある』とまとめられています。