無人駅はクラフトビール醸造直売所…JR山陰線「波子駅」
青い海見ながら乾杯
石州瓦の赤い屋根がひしめく集落の高台に、JR山陰線の波子（はし）駅（島根県江津市）はある。ホームから沿岸の日本海を望むと、一面に広がる赤い屋根屋根の向こうに、青い海がちらり。まるで映画の一場面のような景色が広がっていた。 【画像】波子駅の駅舎内にあるカウンターでクラフトビールを味わう人たち（島根県江津市で） ここは、全国的にも珍しい無人駅として知られる。秘密は、今年4月に改修された駅舎の中にある。駅長室や改札口が取り払われ、地元醸造会社「石見麦酒」が、クラフトビールの醸造タンクを設置。直売所を兼ねた醸造所として、9月にオープンした。 「列車とお酒はマッチしますよ。風景をアテにお酒を楽しんでもらうんです」 責任者の山口厳雄工場長（47）が出迎えてくれた。駅舎を所有する江津市が利活用策を模索していることを知り、「醸造所として活用できないか」と市に提案した本人だ。 「島根は車社会だけど、『たまには列車で飲みに行こう』と鉄道を利用するきっかけを作りたい。ゆくゆくは、無人駅を核にした地域活性化策のモデルにしたい」と意気込む。
2度目の無人化で活性策探る
海に近い駅一帯は、好漁場と陶土に恵まれ、江戸から戦後にかけ、製陶や海運業が集落を支えた。 駅の開業は1921年。戦後は過疎化が進み、いったんは無人駅となるが、2000年に再び有人駅となる。きっかけは、徒歩8分の距離にオープンした島根県立しまね海洋館アクアス。最寄り駅として特急列車が止まるようになり、地元の住民団体が、市から駅舎の指定管理を受ける形で乗車券の発券などを担当することになった。
しかし、利用者は年々減少し、00年度に168人いた1日あたりの乗降客数は、20年度は4分の1に。市はやむなく、22年4月から再び無人駅とし、駅舎の活性化策を探っていたところに、醸造所のアイデアが飛び込んできた。 市創造力特区デザイナーの福山賢一さん（46）は「聞いたことのない発想。これは全国から注目されると思った」と振り返る。賃貸借契約ができるよう関係課に掛け合い、駅でのアルコール提供に問題がないかなどをJR側とも調整して実現した。
