シリア・アサド政権崩壊、現地知る専門家だから分かる本当の理由…反政府勢力だけではない、背後に何が?
12月8日、54年続いたシリアのアサド政権が崩壊した。反体制派のシャーム解放機構(HTS)が首都ダマスカスを制圧し、アサド大統領はロシアに亡命したとの報道がある。突然の崩壊劇はなぜ起きたのか。シリアが専門の東京外国語大学・青山弘之教授に聞いた。(前編/全2回) 【図解】シリアをめぐる諸外国の動き、「反アサド」も一枚岩ではない (湯浅大輝:フリージャーナリスト) ■ イスラエルとトルコの影 ──54年間続いたアサド政権がシャーム解放機構をはじめとした反体制勢力の奇襲を受け、突如「崩壊」しました。主な要因はなんでしょうか。 青山弘之・東京外国語大学教授(以下、敬称略):歴史を紐解くと、シリアのように突然政権交代が起きた背景には他国の存在が見え隠れします。そして、新政権が発足すると、その国が得をすることが多いものです。 論理的に考えた場合、アサド政権が倒れたことで利益を得るのは次の2国です。シャーム解放機構を間接支援していたイスラエルと、アサド政権に敵対するシリア国民軍を援助していたトルコになります。順を追って理由を説明しましょう。 まずはイスラエル。イスラエルは、2023年10月から続くガザ紛争を機に、イスラエルに敵対する勢力を無力化することに注力してきました。中でも最も優先度が高かったのが、イランが援助するレバノンのヒズボラです。 イスラエルはそのヒズボラをコテンパンに潰したと言っても過言ではないでしょう。最高指導者のナスララ師をはじめ、幹部の約半数を殺害しました。イランはイスラエルとの戦いで疲弊しきっています。
■ イスラエルがシリア軍を壊滅に追い込む 青山:そうなると、イスラエルの周辺国における潜在的な脅威は残りひとつだけです。それが周辺地域で唯一空軍力を持っていたアサド政権下のシリア軍になります。 アサド政権は中東地域におけるイランの数少ない同盟国で、イスラエルと強い敵対関係にありました。2011年から続いている内戦の間でも、シリア軍はイスラエルに対抗する主力部隊を温存していました。 それが今回、シャーム解放機構による奇襲に乗じて、イスラエル軍は、シリア軍を壊滅に追い込んだのです。シリア軍の装備はほぼ全てロシアからの供与によるもので、最新鋭とまでは言えないものの、戦闘機や地対空ミサイルシステムを持っていました。武力だけを見ると、ヒズボラを凌駕していたのです。 実際、イスラエル軍はシャーム解放機構の南下に先んじて「イスラム過激派の手に武器が渡らないように」という目的のもと、航空基地や武器貯蔵施設を破壊しています。シャーム解放機構が到着する頃には、「焼け野原」という地域もあったほどです。 イスラエル軍は11日現在、シリアの首都ダマスカス近くのレバノン国境沿いまで展開し始めています。狙いはレバノンにさらに接近することで、ヒズボラを2度と再起できなくするところにあります。 元々、イスラエルはシャーム解放機構への武器供与をはじめとした間接支援をしていましたし、アサド政権の崩壊で得をしたのはイスラエルであることは明らかです。 ──トルコについてはどうでしょうか。