放送アーカイブ構想は「事後検閲」につながるのか?
国立国会図書館が、地上波キー局7局とBS放送7局のテレビ番組、首都圏のAM・FM局のラジオ番組について、録画・録音をして保存するという「放送アーカイブ構想」が議論を呼んでいます。これを実現させるためには、国立国会図書館法や著作権法を改正する必要があります。 報道によると、「放送アーカイブ議連」の設立趣意書には、「放送番組は、音・映像により政治・社会・文化の諸相を伝える記録だ。しかし我が国には後世に継承する制度がなく、日々失われている。放送番組を文化的資産として蓄積するアーカイブをつくるために設立する」とうたわれています。このような考えは、一見すると利益しかないようにも思えます。Yahoo!ニュースの意識調査でも、実に67.7%の人が「推進すべき」としています。一方、放送業界からは「事後検閲」につながる、との反発の声も出ているのです。一体、何が問題なのでしょうか。
政治的に悪用される可能性
そもそも「検閲」とは、最高裁判決によると(1)行政権が主体となって、(2)思想内容等の表現物を対象とし、(3)表現物の一部または全部の発表を禁止する目的で、(4)対象とされる表現物を一般的・網羅的に、(5)発表前に審査した上、(6)不適当と認めるものの発表を禁止することをいうとされています(最大判昭59.12.12)。放送アーカイブ構想は、既に放送されたものを保存するというものですから、厳密には検閲の定義には当てはまりません。しかし、一度放送されて世の中に発表されたものであっても、こうした表現について内容をチェックし、何らかの方法によって、以後は類似の情報を表に出すことを遮断することが考えられます。このような事態を想定して、「事後検閲」という言葉が出てきたものと言えるでしょう。 小川一・毎日新聞社取締役は、Twitterで「報道の自由を脅かす危険があるのにあまり知られていない議論。ぜひ知って下さい。国立国会図書館がテレビ・ラジオ番組を全て録画・録音・保存する『放送アーカイブ』構想。国会図書館は国会議員の調査をサポートする機関。『報道圧力』になりかねません」とツイートしました。確かに、番組を収集する主体とされている国立国会図書館は、特別な役割を与えられた国の機関であり、単に本を貸し出す所ではありません。ホームページ上でも「国権の最高機関である国会の活動を補佐するため、『立法府のブレーン』・『議員のための情報センター』としての役割」があることを明確にしています。 上智大学の田島泰彦教授(メディア法)は次のように指摘します。 「権力に極めて近い国立国会図書館が、全ての番組について網羅的に保存するというシステムでは、放送内容を文化資産として保護するという観点を超えて、政治的に悪用される可能性があると思います。政権与党の議員が、個別に番組をチェックした上で、放送法4条の『政治的に公平であること』を理由に、内容が偏っているとして、監督官庁である総務大臣に指導の要請するなど、関係機関を通して報道機関に圧力をかけることもできる」 また、現時点での構想では、アーカイブに対するアクセスには、一切の制限がないことが想定されています。田島教授は、「アーカイブを現に行っている諸外国では、無条件にアクセスを許すという形にはしていないことが多い。政治権力に直結するところが管理した上で、誰でも無条件に閲覧させるということは大きな問題」と言います。政治的に濫用され、憲法21条1項で保障された報道の自由を侵害しないためにも、政治的な動機に基づくアクセスはある程度制限する仕組みは必要になるでしょう。