2018年 米国は北朝鮮を攻撃する? “第3の道”はあるのか?
特に、強固な日米同盟と、“媚中外交”に傾く韓国の情勢を考えた時、朝鮮半島周辺におけるアメリカの防衛線を、元祖「アチソン・ライン」に回帰させるということです。 アチソン・ラインは、1950年にアメリカ国務長官だったディーン・アチソンが提唱した不後退防衛線です。これが朝鮮半島の東側に引かれたことから、韓国は共産陣営に渡しても良いとの誤ったメッセージとして捉えられ、朝鮮戦争の誘引になったとも言われています。 朝鮮戦争によって、アメリカは防衛ラインが38度線にあることを示してきましたが、これを再度半島の東側に移すかもしれないのです。これにより、黄海は完全に中国の海となり、東シナ海、そして日本海においても、中国の権益が大きく拡大することになります。 しかし、日本を強固な防波堤として使うという前提のもと、アメリカの東アジア戦略の転換は十分に考えられます。北朝鮮のICBMという不確定要素の大きい脅威を放置するよりは、この戦略的後退をするという判断は、十分に合理的です。 朝鮮半島は、周辺の大国に翻弄されたポーランドのような運命をたどるのかもしれません。もし、こうした動きがあるとしたら、春以降だろうと思われます。2月には平昌冬季オリンピックがありますし、何より北朝鮮の冬は厳しいものです。地上部隊を送り込んで弾道ミサイル捜索を行う作戦は、迅速な行動が必要ですが、雪に閉ざされた北朝鮮では、地上部隊の行動は制限されます。動きがあるとすれば、4月以降でしょう。
日本の安全保障への影響は?
中国と呼応したものになるにせよ、ならないにせよ、米軍が軍事行動を実施する場合、在日米軍基地は、在韓米軍基地と同様に最重要拠点です。 北朝鮮は、ほぼ対日本専用と考えられる200発を超えるノドンミサイルを、在日米軍基地だけでなく、日本各地に対して発射する可能性があります。 米軍はもちろん、自衛隊も、合法的な命令が発せられれば、ノドンミサイルのTELを破壊する作戦を行うでしょうし、弾道ミサイル防衛があるため、実際に日本まで飛来するノドンミサイルは少数になると思われますが、完璧に防衛できるとは考えられません。着弾するミサイルもあるでしょう。 弾道ミサイルによる被害は、どのような弾頭が用いられるかで大きく異なります。 最も深刻な被害を生じさせるのは核ですが、核爆弾が完成しているとしても、少数にとどまるはずで、ノドンに搭載されている可能性はまずないでしょう。核は、対アメリカの切り札であり、ICBMに搭載されるはずです。またノドンの場合、例え発射できたとしても弾道ミサイル防衛により迎撃される可能性が高いことも踏まえれば、ノドンに搭載する選択肢はほぼありません。 通常弾頭の場合、市街地のビルにでも命中しない限り大きな被害は発生しません。警戒しなければならないのは、ダーティボム、化学兵器、そして生物兵器です。 ダーティボムについては、前述のとおり、大きな経済的被害をもたらす可能性があります。化学兵器については、1発が着弾しただけでも数百人レベルの死者を発生するかもしれません。 北朝鮮は、弾道ミサイルでの使用に適した炭疽菌(たんそきん)などの生物兵器を保有しているとみられ、これらが使用される可能性がありますが、弾道ミサイル攻撃の場合、感染した可能性のある患者を発病前から治療できるため、多数の死傷者が出るとは考えられません。ただし、そうした防疫処置には、多大な労力が必要です。 しかしながら、生物兵器は、核を除けば、もっとも甚大な被害を及ぼす可能性がある兵器です。日本海沿岸に、北朝鮮からの小型船舶の漂着が相次いでいるように、いざ米軍による攻撃が行われれば、多数の難民が小型船舶で、韓国あるいは日本を目指す可能性があります。彼らが生物兵器に感染していた場合、日本で感染拡大が起こる可能性もあるのです。 昨年11月30日の国会審議で、青山繁晴(しげはる)参院議員が、生物兵器として北朝鮮が天然痘(てんねんとう)を使用する可能性を指摘しました。天然痘は、WHO(世界保健機関)の努力により、地球上から根絶された病気ですが、感染力、致死性ともに極めて高い危険なものです。残念ながら、こうした生物兵器に対する対処に関しては、日本の態勢整備は不十分であり、もしこのような事態が生起すれば、深刻な事態になるでしょう。こうした危険性については、拙著『半島へ 陸自山岳連隊』でも提起しています。 トランプ大統領が“第3の道”を選択した場合、日本の安全保障環境は劇的に変化します。北朝鮮の脅威は消滅するかもしれませんが、韓国という「緩衝地帯」が消滅し、西太平洋の覇権を目指す中国に対して、日本は最前線として対峙しなければならなくなるのです。 これは北朝鮮の脅威以上に、日本にとって最悪のシナリオと言えるでしょう。 2018年も北朝鮮情勢は目が離せない緊張が続きますが、アメリカと中国が手を結びさえすれば、もしかしたら年の瀬には北朝鮮は消滅している可能性もあります。しかし、それは日本にとって喜ばしい未来とは限りません。
-------------------------------- ■数多久遠(あまた・くおん) ミリタリー小説作家、軍事評論家。元航空自衛隊幹部。自衛官として勤務中は、ミサイル防衛や作戦計画の策定に携わる。その頃から小説を書き始め、退官後に執筆した『黎明の笛』セルフパブリッシングで話題になったことから、作家としてデビュー。最新刊は、北朝鮮危機における陸上自衛隊の活躍を描いた『半島へ 陸自山岳連隊』。他の著書に、『黎明の笛』、『深淵の覇者』(全て祥伝社)がある