ドラマ『天皇の料理番』のメニューを再現 料理人・秋山徳蔵の姿を追う
現代によみがえる「フィレ・ド・ブッフ・ロティ」
「確かに、そういう料理法があるんです」と話すのは、東京・麻布十番のフランス料理店「エル ブランシュ」の小川智寛シェフ(43)だ。「天火で焼く場合、ローストビーフの周囲は200度で中心は60度。熱はグラデーションがかかるように伝わり、そのように色がつきます。しかし、篤三の料理法だと熱が肉全体に等しく伝わり、肉色が真っ赤になります。そしてしっとりと仕上がります」。 小川シェフは秋山徳蔵と同じ福井県(坂井市、旧丸岡町)の出身。同店がコース料理として提供するメーンディッシュが、この「フィレ・ド・ブッフ・ロティ」だ。フェアでは、このほかフランスカレー、カツレツ、アッシェ・パルマンティエ(粗挽き牛もも肉とジャガイモのグラタン仕立て)など9品以上が提供されるが、小川シェフは「ドラマのメニューのなかでも、これが一番フレンチらしいでしょう?」とこの一品を選んだ。 ビル5階、店奥の少し薄暗いオープンキッチンで、小川シェフは、切り分けられた和牛のヒレを取り出し、コンソメが入った鍋の中で温め始めた。ドラマでは布で包まれているが、こちらはあらかじめ真空調理されている。「これはダブルコンソメです。仔牛の肉でブイヨンを取り、さらに牛肉を加えてコンソメを作ります。コストがかかりますし、時代が濃厚な味を求めていないので、そう滅多に作りません」。そういう意味で昔ながらの深い味わいが楽しめるはずだ。 茹で終わると、コンソメが十分に染みたフィレを熱い鉄板に移す。焼けた肉とバターの香りが周囲に広がる。肉がジュージューという音を立て、食欲を刺激する。十分に焼けたところで、肉を皿に移す。皿にはペリグーソース。牛肉の煮汁に、マディラ・ワインを加えてさらに煮詰め、そこにみじん切りにしたトリュフを加えたソースだ。ペリグーとは、トリュフの産地として知られるベリゴール地方に由来する。「肉の上からソースをかけると黒くなりますからね。肉の下にソースを添えます」。添えられた野菜とジャガイモの緑と黄色、そして肉の赤色が、真っ白な皿に映え、目に鮮やかだ。