ドラマ『天皇の料理番』のメニューを再現 料理人・秋山徳蔵の姿を追う
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今年4月から7月にかけて放送されたTBSドラマ『天皇の料理番』に登場するメニューを再現してみたらどんな味がするか? そんな美食フェアが26日、東京都内にある「福井県ゆかりの店」7店舗で始まる(11月25日まで)。明治・大正時代という近代日本の揺籃期に本格的なフランス料理を日本に持ち込み、海外要人たちの舌をして「日本は一等国である」と認めさせた秋山徳蔵という人物。料理のみならず、近代日本の歴史と料理人の魂も共に味わいたい。
秋山徳蔵は、福井県出身の偉大な料理人
秋山徳蔵は実在の人物で、1888年(明治21年)福井県村国村(現・越前市)に生まれた。宮内庁大膳寮の主厨長(しゅちゅうちょう)と言われる地位に付き、宮中の正餐や賜餐のほか、天皇家の食卓を半世紀にわたって取り仕切り、日本のフランス料理の普及に貢献した。ドラマでは、やんちゃな少年が数々の困難を乗り越えながら成長し、存分の腕を振るう生涯を描いている。実在の人物は「徳蔵」だが、ドラマの人物は「篤三」として脚本化され、佐藤健が主演した。 フェアの仕掛け人は、福井県東京事務所の三上茂輝所長代理。「秋山徳蔵は、福井県出身の偉大な料理人です。ドラマの放送をきっかけに、福井県出身の店のオーナーらに、ドラマに出てくる当時のメニューを再現していただけないかと声を掛けさせていただきました。徳蔵がオーナーと同じ郷里なだけに、料理を作っている方の思いや気概が感じられるでしょう」と話す。 都内の「福井県ゆかりの店」でフェアが開かれるのはこういうわけで、メニューは『天皇の料理番 公式レシピブック』から選んでもらったというのだが、一体、どんな料理が提供されるのだろうか。
華族会館特製「フィレ・ド・ブッフ・ロティ」
さて、ここはドラマに登場する華族会館の厨房。客に提供するはずの肉を焼き過ぎてしまう。「いまから焼きなおすのは、時間、厳しいですよ」と厨房は苦しい雰囲気に包まれる。良いアイデアはないか? まだまだ見習いの篤三が恐る恐る声を上げようとするが、後が続かない。小林薫演じる宇佐美鎌市料理長が「なんだペテ公(篤三のあだ名)、言ってみろ。良いから言え」と発言を促す。 篤三が言う。「肉、先に茹でてから焼いたらどうですかね。肉は布でくるむなりしてブイヨンで茹でるとか……」。周囲の反対に押し切られそうになるが、宇佐美が決断する。「よし、それで行く。理にはかなってる」。時間が押し迫るなか、無心に包丁を裁く篤三。料理は無事に完成し、客が待つテーブルに提供された。「華族会館特製、フィレ・ド・ブッフ・ロティでございます」。 篤三の機転で難局を乗り切っただけでなく、華族会館という一流のレストランの料理長に篤三の知識と技術が認められる非常に大事なシーンだ。「フィレ・ド・ブッフ・ロティ」。「ロティ」はロースト、「ブッフ」は牛を意味する。つまり、いわゆる「ローストビーフ」である。 私たちが知るローストビーフは天火で焼く。しかし、華族会館で提供されたそれは、一度、茹でられている。そのほうが、肉全体に熱が伝わりやすいからだ。このノウハウは、ご法度覚悟で技を盗もうと華族会館をこっそりと抜け出した篤三が、英国公使館の厨房で働く五百木(いおき)竹四郎(演・加藤雅也)に教えてもらった。「茹でた方が熱が伝わりやすい。こうやって布で巻いて香辛料を入れたブイヨンで茹でるということです」。