天の川銀河と合体した銀河の痕跡を新たに発見 「シャクティ」と「シヴァ」と命名
初期の天の川銀河は、複数の小さな銀河が合体して誕生したと言われています。近年、恒星の位置や運動方向に関する大規模なデータが揃ったことにより、合体した銀河の痕跡を具体的に知ることができるようになりました。 天の川銀河の「家系図」をAIが解読 マックス・プランク天文学研究所のKhyati Malhan氏とHans-Walter Rix氏の研究チームは、大量の恒星が記録されている「ガイア」と「スローン・デジタル・スカイサーベイ」のデータを組み合わせて分析し、合体した銀河の痕跡を探りました。その結果、今から約120~130億年前という極めて初期の時代に天の川銀河と合体したと推定される、2つの銀河の痕跡を発見することに成功しました。両氏はこれらの銀河をヒンドゥー教の神話に因み「シャクティ(Shakti)」と「シヴァ(Shiva)」と名付けています。
■天の川銀河の運動に残る銀河衝突の痕跡
地球が属する天の川銀河は、周辺の銀河と比べて規模が大きめの銀河です。天の川銀河のような大規模な銀河はより小さな銀河が複数合体して誕生した、というのが現在の有力な説となっています。合体前の銀河は、それぞれ独自の恒星や水素ガスを持っています。銀河が合体すると恒星は混ざりあい、水素ガスから新たな恒星が誕生することもあります。 一見すると、銀河の合体は恒星やガスの集合をかき乱すため、数十億年前の合体の痕跡を知ることは不可能に思えます。しかし、一見すると恒星が密に集合して見える銀河も、実際には “太平洋にスイカが2個浮かんでいる” と例えられるほどスカスカであるため、合体時に運動方向や速度が乱される恒星はほんのわずかであり、大半の恒星はそのような力学的性質が銀河の合体後も保存されます。 これに加えて、数十億年前の出来事である合体よりも前から存在していた、あるいは合体の直後に誕生した恒星は、年齢が古い傾向にあります。恒星は含まれる金属(※1)の量が少ないほど古いと推定されるため、金属の量が少ない「低金属星」の集団が見つかれば、その集団全体は古い起源を持つことが推定できます。つまり、恒星の運動と年齢が揃っている大きな集団が見つかった場合、それは合体した銀河の痕跡である可能性があります。 ただし、合体から数十億年経った現在では、かつて別の銀河だったそのような恒星の集団も概ね天の川銀河の回転方向に沿った運動をしており、元の力学的性質は部分的に失われています。また、星団や恒星ストリームのように、規模は銀河よりもずっと小さいものの、年齢や運動方向が揃っている恒星の集団もあります。従って、合体した銀河のような大規模な集団の痕跡を見つけるには、大量の恒星のデータを取得・分析する必要があります。 このような研究は、以前ならば不可能でしたが、ESA(欧州宇宙機関)が2013年に打ち上げた宇宙望遠鏡「ガイア」によって可能となりました。ガイアは天の川銀河に属する恒星の性質を収集し続けており、現在では約15億個もの恒星のデータを持っています。 ガイアの恒星カタログの分析により、「ガイア・ソーセージ(Gaia Sausage)」や「ポントゥス・ストリーム(Pontus stream)」など、80億年以上前に合体したとみられる銀河の痕跡が次々と見つかっています。また、天の川銀河の中心部には「プアー・オールド・ハート(Poor Old Heart)」(※2)という年齢の古い恒星の集団があり、現在の天の川銀河はこの集団と他の銀河が合体することで形成されたのかもしれません。 ※1…恒星における「金属」とは、水素とヘリウム以外の元素の総称であり、炭素や酸素のような化学的には非金属な元素も含まれます。 ※2…Poor (乏しい) とは金属に乏しいこと、Old (古い) とは恒星の年齢が古いこと、Heart(中心部)とはこの集団が天の川銀河の中心部にあることを意味しています。