「半導体投資」インドに照準…日本勢「米中」の影響回避
米中の対立構造と距離を置くインドが、半導体投資の有望な市場として浮上している。政府の強力な資金支援も追い風に、台湾の力晶積成電子製造(PSMC)やルネサスエレクトロニクスが現地企業と連携し市場参入を計画する。対立の影響を回避しようとグローバルサプライチェーン(供給網)の見直しが進む中、中国本土に対する投資の受け皿として存在感を高めている。(小林健人) 【図解】知っておいて損はない、半導体の基礎知識 「我々が成長していくため、インド市場を攻めることは非常に大きなテーマだ」。ルネサスの柴田英利社長は5月に開いた経営戦略説明会でこう強調した。自動車や産業機器向けの需要創出で重要な市場と位置付けており「2030年にインドでの売上高をルネサス全体の売上高の10―15%にする」と力を込める。 関心を寄せるのは半導体メーカーだけではない。国際団体のSEMIが9月に同国ニューデリー近郊で初となる展示会「セミコン・インディア」を開催。製造装置メーカーが半導体工場の稼働を視野に入れ、最新の技術や製品を展示する。日本勢も東京エレクトロンや東京精密などが出展しアピールする。 活況に沸く背景には米中対立の余波に加え、政府の補助金など産業政策によるところも大きい。政府の後押しを踏まえ、大手財閥タタ・グループは台湾のPSMCから技術供与を受けて半導体の前工程工場を建設する。投資額は9100億ルピー(約1兆7000億円)で、26年の稼働を目指す。米マイクロン・テクノロジーやルネサスもそれぞれ現地企業と組み、半導体の組立工場を建設する方針だ。 日本貿易振興機構(ジェトロ)の吉田雄アーメダバード事務所長はタタの経営判断について「自社でEMS(電子機器製造受託サービス)を手がけており、製造した半導体を部材として使える。(政府の製造業振興戦略)『メーク・イン・インディア』とも符合する」と合理性を説明する。 半導体検査装置大手アドバンテストの津久井幸一グループ最高執行責任者(COO)もインドに注目する一人。すでに同社はソフトウエアの開発拠点を持つ。現地のデザインハウスなどに検査装置が納入され、サポートチームも常駐している。津久井グループCOOは「顧客から言われれば動ける体制は作っている」と自信を示す。 世界で有数のIT人材を抱える環境も大きな魅力。その利点を生かそうと、システムオンチップ(SoC)の設計・開発を手がけるソシオネクストは23年にベンガルールに拠点を開設した。現地の半導体設計企業や研究機関とも提携し、人材を活用しながら最先端半導体の設計能力を強化する。 課題は脆弱(ぜいじゃく)なインフラだ。ジェトロの吉田所長は「水や電気の総量は足りているが、停電が頻発している。半導体を作るためには、インフラの質的な部分の改善が必要だ」と指摘する。 また材料や産業ガスなど多様で複雑なサプライチェーンも未成熟だ。産業基盤の不完全さは否めないが、言い換えれば日本企業が参入する商機も大きい。国・地域別で半導体装置市場のシェアを比較すると、23年のインドの比率は1%以下。最大市場である中国の34%との差は大きいが、手厚い産業政策や豊富な人材を考慮すると、伸びしろがあるとも言える。グローバルサプライチェーンが再編されるにつれ、半導体産業の集積が進むのは間違いない。