『【推しの子】』はなぜ“理想の実写化”になったのか 原作の芸能界描写に正面から回答
実写版『【推しの子】』は原作の「2.5次元舞台編」をなぞる展開に
2.5次元舞台編は恋愛リアリティショー編と並ぶ『【推しの子】』の人気エピソードだが、原作者の漫画家・鮫島アビ子(志田未来)が脚本家のGOA(戸塚純貴)に抗議する場面を通して、漫画の実写化に伴うトラブルを描いた回でもある。 今回のドラマ版では『東京ブレイド』をテレビドラマ化するという展開に改変している。その結果『【推しの子】』を実写ドラマ化することに対する作り手の態度表明とでも言うような回に仕上がっており、漫画をドラマ化することの意味が強く打ち出されたエピソードに仕上がっていた。 同じことはアイの事件の真相を実録映画「15年の嘘」として制作することで真犯人を告発しようとする「映画編」を劇場映画『【推しの子】 -The Final Act-』で展開するスタンスにも表れている。 つまり本作は原作漫画がおこなった問題定義を真正面から受け止め、ドラマや映画といった実写映像作品として打ち返した批評的な作品なのだ。 何かと物議を呼ぶ「漫画の実写化」だが、実写化に伴う齟齬や混乱自体を受け止め、映像にフィードバックしているという意味において、本作は理想の実写化である。
成馬零一