「本当はそんな余裕ないのに…」賃上げせざるを得ない中小企業の悲鳴。“地方で月給30万円”でも人が集まらない
「社員よりバイトのほうが稼げる」
飲食チェーン店長の坂田智彦さん(仮名・42歳)も「バイトのほうが自分よりも高収入」とため息をつく。 「アフターコロナで客足が戻り、ありがたいことに会社の業績は右肩上がり。しかし、私の給料はかろうじてボーナスが数万円増えた程度でほぼ据え置きです。 コロナの時短営業が完全終了したことで、勤務時間は増えていき、現在は一日17時間・月26日ほど店に立っていますが、時給換算すると1200円に満たない。一方でアルバイトは深夜時給1600円。とはいえ、今いるアルバイトにやめられたら困るので、とにかく彼らのご機嫌取りに徹しています」
身を削った賃上げの先に起こること
建設業・不動産業専門の経営者支援を行っている髙橋朋智氏も、中小企業経営者が身を削って賃上げせざるを得ない状況に危機感を覚えている。 「建設業界でも、人員が足りず従業員や現場の職人から賃上げが行われています。ただ、建設業界には家族経営の会社も多く、人手不足や経営難で店じまいする企業も増えてきています。 さらにコロナ禍で売り上げが減った個人事業者や中小企業に対して行われた、通称・ゼロゼロ融資の返済開始も会社の財政逼迫につながっています。また、建設業や運送業などに多い多重下請け構造も問題。大手企業は景気がよくても、二次、三次下請けの中小企業は適切な価格転嫁が行われていないのです」
“大企業かチキン屋か”
経済アナリストの森永康平氏も、大企業と中小企業との格差の広がりを指摘する。 「日経平均株価が史上最高値を更新したのも一部の大企業が好調なだけで、日本の労働者の7割が従事している中小企業にはその恩恵が巡ってきていません。多くの中小企業の利益は個人消費に大きく左右されますが、政府は家計負担を増やし、内需を冷え込ませる政策ばかり打ち出しています。 それで、『賃上げをお願いしたい』なんて都合がよすぎる。防衛的な賃上げの末に、中小企業の淘汰が進めば極端な話、韓国のように『大企業かチキン屋か』なんて格差を生み出しかねません」 中小企業6割賃上げの裏には、身を削る経営者や、そのしわ寄せを受ける正社員が存在するのだ。 【中小企業診断士・髙橋朋智氏】 office Gunshi 行政書士事務所・中小企業診断士事務所代表。元現場監督の経験を生かし、建設業・不動産業専門の経営者支援を行う 【経済アナリスト・森永康平氏】 マネネCEO。日本の景気回復には中小企業の成長が必要不可欠と主張。「⽇本中⼩企業⼤賞2023」の特別審査員も務めた 取材・文/週刊SPA!編集部 写真/PIXTA ―[中小企業[賃上げ現場]の悲鳴]―
日刊SPA!