北朝鮮エネルギー問題と日朝交渉の行方 ── 早稲田大学・重村教授に聞く
中国が今年1月から原油供給を停止し、北朝鮮は石油の確保が困難になった ── こうした見方に対して、疑問を投げかけるような報道が先月中旬に相次いだ。石油はいまも止まっているのか。そしてこの北朝鮮のエネルギー問題は、拉致問題をめぐる日朝交渉にどう影響するのか。早稲田大学大学院国際コミュニケーション科・重村智計教授に話を聞いた。(河野嘉誠)
中朝パイプラインの実態 石油ストップは継続中
米国政府系放送局・自由アジア放送(Radio Free Asia、RFA)は7月15日、北朝鮮のガソリン(ディーゼル油)や軽油の市場価格がこの二年間、ほとんど上昇していないと報じた。また、北朝鮮が精製所の老朽化により、中国側に精製済みの軽油やガソリンの輸出を要請していると伝えた。 RFAの報道に対して、朝鮮半島問題が専門の早稲田大学大学院国際コミュニケーション学科・重村智計教授は疑問を呈する。「石油の値段が安定しているのは、市場価格に左右されない統制品だからだ。石油は安全上の問題もあるため、市場では販売されない。ガソリンスタンドなどの公営施設で扱われるのが普通だ。仮に闇市場で販売されるとしても、自動車の普及率が低い北朝鮮では需要が無い」 東洋経済オンラインが7月16日に掲載した『「中国、北朝鮮向け原油輸出停止」はウソ 統計だけでは絶対わからない北朝鮮の実態』という記事は、中朝間の原油供給パイプラインの送油は一度停止すると、再稼働が難しいという技術的な問題を指摘した。その上で、中国が原油の供給量を減少させるのは可能だが、全面的に停止させるのは困難としている。重村教授は次のように指摘する。 「中国がパイプラインで北朝鮮に送っていた大慶油田産出の原油は、パラフィン分が多く低品質だ。常温では固まってしまうという問題点があるため、送油にはパイプラインに付属したヒーティング装置が不可欠だ。逆に言えば、ヒィーティング装置を動かせば、パイプラインの再稼働はそれほど困難ではない」 中国は北朝鮮への輸出を停止したわけではない。北朝鮮の人間が中国本土へ行き、現金で石油を購入することは可能だ。北朝鮮は外貨不足に悩んでいる。国連や日米の制裁にくわえ、昨年から中国主要銀行からのドル送金も中止になったからだ。北朝鮮の現状を考えれば、年間50万トンの原油をマーケット価格で調達するのは不可能というのが、重村教授の見立てだ。 「パイプラインを使用しなければ、2トン車のローリーで輸送するしかない。中東から海上経由で輸入するとしても、北朝鮮の外港・南浦には3万トン規模の油送船しか入港できない。50万トンを国内に輸入するには膨大な回数の運送が必要だ。金銭的にも物理的にも、北朝鮮が必要なだけの石油を確保するためには、中朝パイプラインの稼働が不可欠だ」