北朝鮮エネルギー問題と日朝交渉の行方 ── 早稲田大学・重村教授に聞く
日本は単独で国交正常化ができるのか
石油不足の影響は、国民の日常生活にも影響を及ぼし始めている。平壌ではバイク、オートバイなどの二輪車の使用が禁止された。軍高官も車ではなく、徒歩で通勤している。北朝鮮の石油備蓄は150万トンほどとされるが、重村教授によると「軍隊を維持するためには、2~3年で使い果たしてしまう量」だという。 重村教授は、日本は拉致問題解決のためには米中韓との連携が不可欠だと認識する必要があると話す。「米国のバイデン副大統領は昨年12月4日、習国家主席に対し北朝鮮へ原油の輸出禁止を要請した。習国家主席は就任後、金正恩第一書記との会談は一度もしてない。韓国の朴槿恵大統領とは頻繁に会談し、北朝鮮崩壊後の統一について意見を交換している。米中韓が連携し、北朝鮮を窮地に追い込んだからこそ、日本に拉致問題解決のチャンスがやってきた」 北朝鮮の危機的状況を継続させるためにも、関係国への説明と連携は不可欠だ。岸田文雄外相は7月23日に訪米し、日朝交渉の説明をする予定だったが、ケリー国務長官の中東訪問により延期された。 「北朝鮮は日本に譲歩する気はあるが、日本が見返りとして何を出すのかが争点になる。北朝鮮は拉致被害者の全員帰国と引き換えに、国交正常化と1兆円を超える経済協力資金を要求してくるだろう。しかし、日本の支援が北朝鮮の核・ミサイルの開発資金につながることを米国は怖れている。日本としては最低限、国連の制裁決議に従いながら進めていくしかない」(前出・重村教授) 北朝鮮はある程度の経済支援がなければ、拉致被害者の全員帰国を実現させない。一方で、国際社会との連携を考えれば、日本が北朝鮮と単独での国交正常化や直接的な経済支援をするのは事実上不可能だ。日本はこのジレンマをどう解決するのか。重村教授はこう話す。 「有力なのは日本人遺骨収集の経費とモンゴルルートだ。北朝鮮は遺骨収集に、数十億の費用と、遺骨1体あたり数百万の資金を求めている。また、モンゴルのエルベグドルジ大統領は首脳会談の翌日23日におこなわれた日経新聞とのインタビューのなかで、モンゴルに進出した日系企業などを支援する『共同投資ファンド』の創設を日本政府と協議していると明かした。この共同ファンドが北朝鮮への援助ルートになる可能性がある」 ---------- 重村 智計(しげむら としみつ) 1969年早稲田大学法学部卒業。1976年に韓国高麗大学大学院研究生。1986年スタンフォードプロフェッショナルジャーナリズムコース修了。シェル石油勤務を経て、1971年に毎日新聞社に入社、79年から85年までソウル特派員。ワシントン特派員時代には、米朝核交渉で数々の国際的なスクープを報じる。毎日新聞論説委員を経て、早稲田大学大学院国際コミュニケーション研究科・教授。主な著書に『外交敗北ー日朝首脳会談の真実』(講談社)、『激動!北朝鮮・韓国そして日本 歴史的必然と日本の選択』(実業之日本社)など。『月刊 WiLL』に『朝鮮半島通信』を連載中。