『虎に翼』をサスペンスに変える片岡凜の怪演ぶり ゆくゆくは大竹しのぶのような大物に?
時代の転換期を生きる美佐江(片岡凜)の孤独
この回は、広島に原爆が投下されてから79年目にあたる8月6日に放送された。人を殺してはいけない。それはごく当たり前の価値観として受け入れられているが、戦時下では多くの人が理不尽に命を奪い奪われ、それが肯定された。人々の価値観はその時々で大きく変わってしまうことを、時代の転換期を生きる美佐江はよくわかっている。 でも、傷ついた人々が過去の反省をもとにルールを定めたということも彼女は理解しているのではないだろうか。美佐江には、なぜ罪を犯してはいけないかの答えを知りたいという好奇心よりも、その罪を憎む他の人たちと同じになれない孤独を感じる。だからこそ、自分と同じく恵まれた環境にいて、本来は罪を犯す必要のない人たちに理由を与え、同じになろうとしたのかもしれない。たとえ価値観を共有することはできなくても、寅子が「一緒に考えてみない?」と向き合おうとしてくれたことも少なからず彼女にとっては救いだったはずだ。 しかし、寅子はとっさに娘の優未(竹澤咲子)を美佐江から庇った。その瞬間、美佐江が見せた失望と諦念が入り混じる表情が後を引く。片岡の笑顔だけで観る人を戦慄させる怪演ぶり、その中にほんのりと人間味を忍ばせる名演は、大竹しのぶや斉藤由貴のような大女優となる片鱗を感じさせた。SNSで有名になり、特にX(旧Twitter)でのウィットに富んだ投稿が度々バズっている片岡。ずっと出演するのが夢だったという朝ドラでもインパクトを残し、“バズ”を生み出した彼女の将来に期待したい。願わくば、東大に合格した美佐江の今後も知りたいところだ。
苫とり子