山田孝之×仲野太賀がこだわる「生に執着する人間の醜さと美しさ」とは?
仲野 これはネタバレにもなるのですが、僕が演じる兵士郎は、物語の始まりと終わりでは物語上の立ち位置が180度変わっていきます。その様を、自分的にはすごく大事に演じたいなと思っていました。 紛争が続いていく中で、兵士郎自身が信じているものが揺らいでいく様子に人間味が出ればいいなと思っていたし、人間味が出れば出るほど賊になっていく、そういうグラデーションをとにかく丁寧に大事に演じました。 ── お二人は、映像や舞台で幅広く活躍されていますが、ドラマとも舞台とも違う映画ならではの魅力をどう感じていますか? 山田 映画は、お客さんが自分の時間をさいて劇場まで足を運び、お金を払って暗い中で集中して見るものなので、お客さんの集中力が圧倒的に高いというのがシンプルに強みです。 今は配信ドラマもあり、数のバランスで言えば、テクノロジーの進化とともになんでも二極化していきますが、二極化すればするほどアナログは絶対に残っていくので。音楽も、レコードからカセットテープになって、カセットテープからCDやMDになり、配信に至りましたけど、今、サブスクで配信になればなるほどレコードの売り上げが伸びていますよね。 そんなふうに、映画も絶対になくならないものだと思うので、変な危機感みたいなものも僕はないですし、映画はとても素敵なものだと思います。
── 撮影に臨む際も、心構えが違いますか? 山田 役者は、配信ドラマでも映画でもやることは変わらないので心構えはひとつです。ただ、こっちも真剣にやっているので、真剣に見てもらえるとやっぱりうれしい。 もちろん、作品によってはラフに見てほしいものもありますけど、たとえば配信の作品を家で掃除しながら片手間に見てもらったりすると、「一瞬、俺が目をちらっと動かしたことに気づいてないだろうな。そこに気づかないとニュアンスが少し違っちゃうんだけどな……」みたいに思うこともあるんです。そういう意味で、集中して見てもらえる映画は自分にとっても大事だし、映画に出るのはすごく好きです。 仲野 僕も、劇場体験というのは特別なことだと思います。大きい画面で、大きい音で映画を見ることは、僕自身が「映画俳優になりたい」と思ったように人生を変えるきっかけにもなるし、テレビで見るドラマや配信作品とは違う「体験」になると思います。 誰かと一緒に映画館に行く喜びも体験として記憶に残りますし、いい映画を見た後に外に出ると、街の景色がちょっと違って見える。僕もそういう小さな体験が自分の中で積み重なって大きな思いになったと思うので、映画が大好きなんです。 ── プライベートで好んで見るのはどういう映画が多いですか? 仲野 演劇もそうですが、僕は監督や演出家で見ることが多く、作品を作っている人の色や作家性がしっかり伝わってくる〝作り手の顔が見える作品〟が好きです。俳優としても、そういう作品に関わっていきたいなとすごく思います。 山田 僕はプライベートで見る映画の本数が圧倒的に少なくて、「演じること」が好きなんです。今回の政も、僕が現場で実際に演じるまで、スタッフもキャストも本当の意味では彼のことを知らないわけです。 それを、本番を迎えるまでに、とにかく(役と)話し合って、(役と)同じ気持ちになり、政という1人の人間になって、彼の生きざまを伝えてあげるのが僕の仕事なので。僕が政を託されたということは、僕にしかできない政があるわけで、それを試行錯誤しながら体現できる喜びがまず一番にあります。 勉強のためや、刺激を受けるためには、本当は見たほうがいい作品もあるかもしれないけれど、やはりそれよりも、役作りをして実際に演じ、その人として生ききることのほうが僕は圧倒的に好き。だから役者をやってるみたいなところがあります。