ニオイが気になる今こそ知りたい「ワキガの科学」。日本の研究チームが原因菌の特定に成功!
「ワキガには酸っぱいにおいや尿のようなにおいなどさまざまなタイプがあり、それらが混じり合って各人のワキガになっています。特にワキガが強い人に目立つのがカレーに含まれる香辛料のクミンのようなにおいと、タマネギを思わせる硫黄臭。S.ホミニスが原因になっているのはこの硫黄臭です。 さらに、今回の研究ではこのS.ホミニスだけをピンポイントで殺菌できる酵素を開発できました。人体にとって有用な菌はそのままに、ワキガの原因の菌だけを除去できるのです」 ■ワキガは病気じゃない ワキガの原因菌を特定し、殺菌方法を確立。今回の発見によりワキガを撲滅できる日が近づいたようにも思えるが、研究チームの狙いはそこにはないという。 「実は本来の目的は脇にいる菌の働きの調査で、ワキガ撲滅を目指していたわけではないんです。そもそもワキガは病気ではありませんし、ワキガに健康上の問題があるわけでもない。個性の一種だととらえるべきでしょう」 え、ワキガは病気ではない? 「まず、ワキガは人類にとってまったく珍しいものではありません。確かに日本を含む東アジアではワキガを持つ人はマイノリティですが、白人や黒人では8~9割以上の人がワキガを持っています。 ですから欧米やアフリカ大陸ではワキガがあるのが普通で、ワキガは嫌がられません。治療の対象になることもまずないでしょう。ワキガを持つ人が少なく、ワキガへの嫌悪がある日本や東アジアのほうが特殊なのです」 ではなぜ東アジアではワキガが嫌われるようになったのか? 「もともと人類にはワキガがあったのですが、進化の途中で『ABCC11』という遺伝子に変異が生じた人はワキガを持たなくなりました。そして、東アジアには変異したABCC11を持つ人が多いため、ワキガの人が珍しくなったのです」 ワキガは決して病気や異常ではないのだ。研究チームの植松智教授もワキガ対策は本来の目標ではなかったと言う。 「結果としてワキガ軽減につながる知見は得られましたが、研究としての一番の価値は脇の下の細菌たちの実態を明らかにしたことです。皮膚にいるさまざまな菌は複雑な振る舞いをしていて、ワキガや皮膚疾患などもその結果なのですが、細かいことはわかっていませんでした。 しかし私たちは細菌たちを遺伝子レベルで丸裸にし、作用も明らかにできました。いわばワキガの関係者の詳細な名簿を手に入れたようなものですから、学問的な価値も高いのです」