バイリンガル政策を推し進める台湾から学ぶ、「言葉の壁」を取り払うことがもたらす最大のメリットとは
コロナ禍において国民全員にマスクを配布するシステムをわずか3日で構築し、世界のグローバル思想家100人にも選出された若き天才オードリー・タン。自身もトランスジェンダーであるタン氏が、日本の若者に向けて格差やジェンダー、労働の問題からの「解放」をわかりやすく語る『自由への手紙』(オードリー・タン著)より抜粋してお届けする。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『自由への手紙』連載第29回 『SNSの「ハッシュタグ」が国民を動かす…台湾の若き天才が考える、今の政府に必要不可欠な2つの「素養」』より続く
言葉の壁から自由になる
私の母語は台湾語ですが、考えるときは英語です。英語の他に標準中国語とドイツ語を学び、フランス語も少し話せます。 そんな私が重要だと思うのは、多くの言語を習得すればするほど、新しい言語を学びやすいということ。 当たり前の話ですが、言語は文化に通じていて、より多くの文化に接している人ほど、新しい文化を受け入れやすくなります。 つまり、たくさんの言語ができるということは、たくさんの文化を取り入れられるということです。 そこで台湾政府は、10年以内にバイリンガル国家になることを目標に「2030年バイリンガルカントリープロジェクト」を発足させました。 しかし、私たちが言う「バイリンガル」は、必ずしも台湾の公用語と英語を指しているわけではありません。 たくさんの原住民がいる台湾には、20を超える言語があり、その大半が土着言語です。アミ語、タイヤル語、ルカイ語、マカタオ語……。 つまりバイリンガルとは、「アミ語+英語」でもいいし、「ハッカ語+英語」でもいい。自分の母語に加えて英語を話せるようになるということを、私たちは「バイリンガル」としています。
言葉で世界への“ドア”を開く
台湾がバイリンガル化すると、2つのメリットがあります。 メリットその1:世界中の英語を共通語としているたくさんの国々、たくさんのコミュニティとつながることができること。 メリットその2:台湾にやってくるさまざまな国の人々が、「台湾は居心地のいい場所だな」と感じてくれること。 他の国からたくさんの人が旅行やビジネスで台湾にやってきたとき、もしも町中の看板や交通案内板が台湾語だけだったら、とっかかりとなる部分が見つからず、気後れしてしまいます。その意味で英語は、「ドアは開いているよ」というサインにもなり得るのです。 台湾では現在「就業ゴールドカード」を発行しています。台湾を訪れた人たちが「すっかり気に入った。長く滞在したい」と思ったとき、このカードを使って申請すれば、観光ビザを3年間の滞在ビザに変更できます。そうすれば就労と居住が許可され、6ヵ月後には国民健康保険にも加入できます。 3年間の有効期限が切れたら、再度申請が可能。実際に多くの外国人が、再申請をしたり台湾の市民権を取得したりしています。台湾は二重国籍を認めているので、外国人は母国の国籍を維持したまま台湾人になれます。 「バイリンガリズム」を超えた、「バイナショナリティ」。 これは国としてトランスカルチュラルなアイデンティティを築くのにとても良い方法だと思います。トランスカルチャー――つまり異文化が混じり合った、境目のない文化を。 自分たちを特定の文化で定義するのではなく、開かれた環境の中で、新たに定義しようとしているのです。