バイリンガル政策を推し進める台湾から学ぶ、「言葉の壁」を取り払うことがもたらす最大のメリットとは
プログラミング言語が共通語でもいい
この話に対して、「英語を学ぶことが重要だ」という平板なとらえかたをする必要はありませんし、それはとても狭い、誤ったとらえかたでもあります。 たとえばこれからは、プログラミング言語が、英語に匹敵する共通語になるかもしれません。プログラミング言語のジャバスクリプトは英語と同様に、いいえ、英語以上に、国際的交流の場でよく使われている言語です。 ジャバスクリプトのみならず、スクラッチやパイソンというプログラミング言語は、多くの異文化と異文化を自由につなぎ、混じり合った新たな文化をつくりだしている。言ってみれば、コンピュータの世界でトランスカルチャーの触媒になっています。国ごとにそれぞれのコンピュータ設定がありますが、大きな問題ではないでしょう。 ユーザーがプログラミング言語を学ぶのは、プログラマーになりたいからではありません。そのプログラムを使って何かをやりたいからです。 コンピュータは誰かの発明と誰かの発明が掛け合わされて発達してきたという歴史があります。国を超えた人と人との協働が、コンピュータの成り立ちなのです。 私は8歳のときに独学でプログラミングを学んで以来、コンピュータに親しんできました。他の人たちと互いの成果をもち寄って編集し、新しいものをつくり出す「リミックス」は楽しいものです。リミックスは開発の本質だと思いますし、特にパワフルです。 コンピュータ上には今も「Duolingo(デュオリンゴ)」のようなリミックスコミュニティがたくさんあって、みんなが自発的に翻訳を上げたりしている。相互にやり取りできる空間がそれを実現しています。
「言葉の壁から自由になれる」グローカル化の時代
言葉の壁から自由になれば、これと同じことが、世界のあちこちで起きる。それが母語の他の言語を学ぶ最大の贈り物です。 すなわち、誰もが国の枠を超えて協働し合える――これが何よりも大切なことです。 今はグローバル化の時代だと言われていますが、私たちが目撃しているのは、いわゆる「グローカル[グローバル+ローカル]化」です。 自分の地域(ローカル)の文化や言語を、他の地域の異なる文化や異なる言語の人々が開発したデバイスを使ってシェアする。そうすると、ずっと知っていて、おざなりにしていたかもしれない自分の文化を、異文化の視点から見直すことができます。そこには何かしら、新たな発見がある。これはグローカル化のひとつです。 その逆も然りで、誰かのローカル文化が、他の地域の文化に新たな視点を届けることもあるでしょう。 私たちはそうやって、自分の言語という文化を大切にしながら、言葉の壁から自由になることができます。 『「山に登ってみては?」…台湾の若き天才が「AI嫌い」な人々に山登りをオススメする納得の理由』へ続く
語り)オードリー・タン