夏ドラマ名作ベスト5。“西園寺さん”も最高だったけど、圧倒的な面白さのNo.1は
サスペンス展開×深い人間描写に惹きつけられる
灰川十三(小日向文世)を慕って、“灰川邸”に集まっていた子どもたちは、みな実の親から虐待を受けていました。事件の真相を追う主人公・冴木仁(成田凌)自身も、虐待を受けた傷を抱えています。 本作は毎話新たな真相が明らかになるサスペンス的展開に加え、心にも体にも傷をもつ登場人物たちの背景と心理を丁寧に描くことで、観る者を惹きつけました。刑事でありながら自身の暴力衝動を抑えられない葛藤と凶暴性を表現した成田をはじめ、深く傷ついた心をそれぞれに演じた俳優陣も印象的。 だからこそ最終回は、冴木の台詞「繋がって来たのは暴力だけじゃない。誰かが誰かを守りたいという想いもずっと繋がってきたはず」。そして冷淡に描かれ続けた灰川が、子どもたちに見せた素顔の優しさが相まって、涙なくしては観られませんでした。あの一瞬で灰川の、物語の真髄を表現した小日向文世には脱帽です。
笑うマトリョーシカ
サスペンスでもう1本面白かったのは『笑うマトリョーシカ』。若き人気政治家・清家一郎(櫻井翔)と有能な秘書・鈴木(玉山鉄二)の“奇妙な関係”――彼らを取り巻く黒い闇に、主人公の新聞記者・道上(水川あさみ)が迫っていきました。
得体の知れない笑顔の櫻井翔がハマり役
原作は、日本推理作家協会賞や山本周五郎賞など数々の受賞歴を持つ早見和真の同名小説。未公開株を巡る「BG株事件」を中心とした政治の闇と、清家と鈴木の関係を探っていくなかで、清家という人物が浮き彫りになっていく展開は見応えがありました。 物語の展開と合わせて目が離せなかったのが、櫻井翔の得体の知れない笑顔。クリーンで完璧なイメージなのに、人間としての本質や意志が感じられない――まさにマトリョーシカのように張り付いたその笑顔には、不気味さを覚えぞくっとしました。ハマりすぎでしょう! それもそのはずです。原作の早見氏は櫻井をイメージして書いたというのですから。 政治家としての“仮面”を完璧にかぶる人物を、櫻井も完璧に演じています。そして一転、最終回で「見くびるな」と、はじめて自身の心情を吐露した見せ場は圧倒的。俳優・櫻井の力を見せつけました。