歴史という名の法廷へ「陳述書」――『安倍晋三 回顧録』の歴史的な意味
為政者としての責務
回顧録のためのインタビューは、退任後すぐに始められた (C)Alexandros Michailidis / Shutterstock.com
2023年2月8日、『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)が出版された。私と尾山宏読売新聞論説副委員長が聞き手を務め、北村滋前国家安全保障局長が監修したこの書は発売から2カ月あまりで26万部を数え、ベストセラーに連なることになった。安倍政権の歴史的な意味は、133年の日本憲政史上最長の内閣だったというだけでない。国論を二分する諸課題に積極的に取り組みながら、それにもかかわらず、長期政権を維持し得たというところにある。安倍晋三というリーダーが何を考え、どんな戦略を描きながら政治を進めたかを、「親安倍」も「反安倍」も、まず虚心にこの回顧録を繙いていただいて、日本の政治の有りようを考えていただければ幸いである。 私たちが安倍さんに回顧録出版を申し入れたのは、安倍さんが首相の辞意表明をする1カ月半前の2020年7月のことである。安倍さんの自民党総裁としての任期は翌21年9月までで、それをもって首相を退任する予定だった。そこで、退任後直ちに、回顧録作成のためのインタビューに入りたいと申し出た。これに対して安倍さんは、いとも簡単に「ああ、いいですよ」と応じてくれた。 回顧録をお願いした一番の理由は、第一次内閣での防衛庁の省昇格や国民投票法の制定、教育基本法の改正、第二次内閣での特定秘密保護法やテロ等準備罪の制定、集団的自衛権の限定容認と平和安全法制の制定など、反対論が渦巻く中で、どうして約8年9カ月(3188日)という長期間政権を維持することができたのか。その秘密を直接本人から語ってもらうことにあった。
本文:2,976文字
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橋本五郎