米史上最悪のラスベガス乱射事件 それでも銃規制は遠い未来の話か
■類似の乱射事件は50年前にも
容疑者がホテルの高層階から無差別に乱射を繰り返し、現在までに59人の死亡が確認された、アメリカ犯罪史上最悪の大量殺傷事件。実は今回のケースと非常に類似した事件が1966年に南部テキサス州のオースティンで発生しており、その際には15人が殺害され、30人以上が負傷している。25歳のチャールズ・ホイットマンはアッパークラス出身の大学院生であったが、1966年8月に自身が在籍していたテキサス大学オースティン校の時計塔に複数のライフル銃などを手にして現れた。 90メートルの高さをほこる時計塔は観光スポットにもなっていたが、ホイットマンは時計塔の入り口付近で受付係や見学者らを射殺し、そのまま最上階に移動した。ホイットマンは時計塔の最上部から、地上にいる学生らに向かって狙撃を開始。ホイットマンは過去に海兵隊で一級射手として表彰されたこともあり、地上にいた多くの学生らが次々と凶弾に倒れた。通報を受けた警察はすぐにホイットマンの拘束を試みたが、時計塔の上からの狙撃によって、近くまで接近することすら困難で、警察がホイットマンを射殺するまでに1時間半以上を要した。 ホイットマン事件は当時、多くのアメリカ人に衝撃を与えた。しかし、悲しいことに同様の無差別銃撃は全米各地で定期的に発生している。1984年にはカリフォルニア州のファストフード店でサブマシンガンとショットガンを持った男が侵入し、店内で食事をしていた子供ら21人を殺害している。容疑者は犯行から1時間後に警察の狙撃手によって射殺された。1986年にはオクラホマ州で、パートタイムで郵便配達の仕事に就いていた男性が10分間で14人の同僚を射殺した後、自ら命を絶っている。1999年にコロラド州リトルトンのコロンバイン高校で発生した銃撃事件はのちにマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画のテーマにもなったが、2人の男子学生は13人の学生と教師を殺害し、図書館で自殺している。その後もバージニア工科大学での乱射事件では32人が死亡し(2007年)、コロラド州オーロラの映画館で発生した乱射事件では12人が死亡(2011年)、昨年6月にはフロリダ州にあるナイトクラブで49人が殺害されている。 2012年12月には、米東部コネチカット州にあるサンディフック小学校にアサルトライフルと拳銃を持った男が侵入。男は児童や教師ら26人を殺害し、教室内で自らの頭部を撃ち抜いて命を絶った。この事件の直後、筆者はフロリダ州立大学で犯罪学を教えるギャリー・クレック教授に話を聞いた。クレック教授は事件を未然に防ぐ有効な手段が存在しない現状に悲観的だった。 「犯罪学者の間では、一度に4人以上が殺害されるケースを大量殺人と呼んでいます。割合で考えた場合、大量殺人はアメリカで年間に発生する殺人事件の僅か1パーセント足らずに過ぎません。しかし、学校や映画館、職場といった場所で発生する無差別乱射を未然に防ぐ方法がないのかという質問には、ほとんどないと言わざるをえません」 銃犯罪を専門に研究するクレック教授は、多くの無差別乱射事件で容疑者が「覚悟を決めて」犯行におよんでいると指摘する。クレック教授が続ける。 「多くの場合、無差別乱射犯には非常に強い動機が存在し、事件後に逮捕もしくは射殺される可能性に対する恐怖感を捨てて犯行に及んでいます。無差別乱射の容疑者が事件現場で自殺するのもそのためです。銃を購入する際に義務付けられている身元調査ですが、強盗のような通常の犯罪者のみに対して高い抑止力があると言えるでしょう」