池松壮亮と石井裕也監督の9度目のタッグは「これを映画化すべきだ」から始まった 平野啓一郎原作の映画「本心」
俳優に徹した池松と、作者として意図を伝えた平野
池松は本作の企画の初期段階から関わっていたことになる。脚本の改稿をはじめ、さまざまなプロセスに触れていたはず。しかし本人は「いつも以上に俳優であることに徹した」という。 「平野さんに映画化の許可をいただいてから、撮影までに3年かかっています。いろんな関わり方があるのだろうと思いますが、本作の映画化を望むこと以外からは基本的に身を引いたつもりです。この企画を僕が提案したことは、撮影現場では誰も知りませんでしたから」と、池松は本作におけるスタンスを明かす。 映画化に際し、平野は助言をするにとどめたのだという。「原作者が口出しすると、あまりいい結果につながらないと思っています。どうしても小説的な観点で意見を言ってしまいますから。なので脚本に関して相談を受けた際には、原作者として助言をするだけです。僕の考えが採用されたところもありますし、石井さんの考えが反映されているところもあります。いい映画にしたい気持ちは同じですから、それでいいんじゃないでしょうか」と、平野もまた原作者としてのスタンスを明かした。 本作は仮想空間などをモチーフにしていることもあり、俳優の身体というものが極めて重要な位置を占めている。池松は猛暑の中、東京中を走り回った。「肉体が発する言語のようなものがないと、その対比となる世界観を描くことはできないと思いました。10年後、20年後、あるいは100年後には、僕たちの現実は劇中で描いている世界を通り過ぎているかもしれません。でも普遍的なるものをきちんととらえていれば、そこには命が宿ったエモーションが残るはずです。朔也の身体から生じるエモーションを大切にしたいと考えていました」と池松は自身の考えを語る。 たしかに、池松の身体からはスクリーンを超えて訴えかけてくるものがある。平野は朔也を体現する池松に対して「非常に生々しく演じていただきました。劇中のリアルアバターは依頼主の代理をする職業ですが、AI(人工知能)やロボットには取って代わることのできない職業です。こういった人間の存在を描くことが本作のテーマのひとつでした。朔也は、ほかの人々がやりたがらない職業を押し付けられる階層の人間でもあるわけです。そんな中でも朔也は自分なりにすごく考えながら生きています。僕は人間が一生懸命に考えている姿が好きなんです。朔也の真面目さと池松さんの真面目さにはやはり近いものがありますね」と語った。