池松壮亮と石井裕也監督の9度目のタッグは「これを映画化すべきだ」から始まった 平野啓一郎原作の映画「本心」
三吉彩花、水上恒司、田中裕子らのパフォーマンスを特等席で見られた
本作には平野の〝分人主義〟という考え方が強く反映され、テーマと固く結びついている。ひとりの人間には、対人関係や環境ごとに人格が存在し、これらすべてを〝本当の自分〟だととらえる考え方だ。対面する相手によって、私たちは自然と表情を変えるものだろう。 朔也の母の友人役の三吉彩花、朔也の幼なじみを演じる水上恒司、そして朔也の母にふんする田中裕子など、本作は出番の多寡に関わらず、一人一人の俳優が大きく重いものを負って、それぞれの役を演じている。そして彼ら彼女らを前にすることによって、池松は朔也としていろいろな表情をのぞかせる。 「朔也自身のアイデンティティーにとどまるのではなく、彼は他者性の中に〝生きる〟ということを見いだしています。共演するみなさん一人一人の責任を持った表現と向き合う中で、朔也を立体的に浮かび上がらせてもらったと感じます。今作の描くものの切実さに対して、皆がある種の責任を取って、演じられているように感じました」と池松は共演者たちに対する印象も述べた。 さらに、「一人一人の素晴らしいパフォーマンスを、朔也として特等席で感じることができました」と続ける。俳優であり、ひとりの生活者である彼の思いに呼応するかたちで、いまこの時代に必要とされる映画が誕生したのだ。 「本心」は2024年11月8日より全国公開中。
文筆家 折田侑駿